上 下
44 / 110
第三章 あやかしは清涼殿を呪いたい

では……良いのだな?

しおりを挟む
 

 やはり、パクチー飴は失敗か。

 鷹子は吉房の話に、うんうん、と適当に頷きながら、全然数の減らない緑の飴を見つめる。

 パクチーが使えれば、炭酸水に緑色がつけられるかも、という思いもちょっとあって作ってみたのだが、大不評か。

 ……パクチーでコーラも作れるのにな。

 とか言いながら、私もパクチー苦手なんだが。

 そもそも、飴ならともかく、炭酸水にパクチー粉混ぜても透明なキラキラ感でないだろうしな。

 うーん、と鷹子が悩んでいると、
「そうか、よいか」
とふいに吉房が喜んだ。

 えっ? はっ? と訊き返す。

 今、自分はなにかを了承してしまったようだ。

 まずい、なにかなっ、と鷹子は焦ったが、吉房は、いそいそと楽器を運ばせるよう、命じはじめる。

 鷹子は奏法が複雑で、今では弾ける者の少ない七絃のきんことが弾けるので。

 鷹子がそれを弾き、吉房が笛を吹くというのだ。

 なんだ、そんなことか、と鷹子はホッとした。

 吉房は巻き上げさせた御簾から夜の庭を眺め上機嫌だ。

「いい風が吹いておるな」

 今にもあやかしが現れそうな生ぬるい風ですけどね。

「我ら夫婦の合奏が風に乗って、何処までも流れていくであろう」

 なんかちょっと可愛らしいな、と鷹子は笑ってしまう。

 そんなことでこんなに喜ぶなんてと思ったのだ。

 だが、風に乗って何処までも流れていくという言葉に、どきりとしてもいた。

 つまり、失敗しても、何処までも流れていくということだ。

 まあ、妃同士で争っているわけでもない。

 それで失敗しても嘲笑してくるものが居るわけでも……

 居たな。

 左大臣が。

 うーむ。
 子どもの喧嘩に親が出てくる、みたいな人だが。

 この時代はしょうがないよな。

 娘の出世はおのれの出世にも関わることだし。

 そんなことを思いながら、吉房と二人で演奏する。

 すると、月の光が強くなった気がした。

 強い風にのって雲が流れていって晴れたのか。

 あるいは、帝か頭の上で合奏を聴きながらご機嫌な神様の御威光か。

 そのとき、鷹子は見た。

 月に照らされ、明るくなった庭に立つ男を――。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私、悪女辞めます!~時間遡行令嬢は、家族のために生きる~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:227pt お気に入り:241

ボクは55歳の転生皇子さま!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:227pt お気に入り:2,529

ありあまるほどの、幸せを

BL / 連載中 24h.ポイント:4,708pt お気に入り:559

百花の王

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:6

愛されない皇妃~最強の母になります!~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:681pt お気に入り:3,395

処理中です...