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第一章 鵺の鳴く夜

おーぷんかふぇ

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 鷹子の居室を出た吉房だったが、何度も鷹子がいる方角を振り返っていた。

 伊勢の神がついてきておられるなどと見え透いた嘘をついてまで、私を遠ざけたいとか。

 ……傷つくではないか。

 そう思いながら顔を上げたとき、安倍晴明が渡殿の手前に立っているのに気がついた。

 平伏するでもなく、まっすぐに自分を見て言う。

「大丈夫です。
 帝は大層な美丈夫です。

 いずれ、女御も心を開くでしょう」

 私の心の中を読むな、陰陽師~っ!

 晴明はこちらの顔色など気にするでもなく、鷹子の居室の方を窺いながら、

「ですがまあ、あの女御の心をとらえるのは難しいでしょうね」
と言う。

「……何故だ」

「いや、なんか得体が知れないからですよ。
 普通の女性と同じようにはいかないでしょうね」

 晴明はそう言い、笑っていなくなった。

 今の、女性陣が見たら、卒倒しそうな笑みだったな。

 やはり、あれに鷹子を守らせるのは問題がある。

「……自分で陰陽の術を習得するか。
 武術の腕前をもっと磨くか」
と帝らしからぬことを呟いて、耳に入ったらしい警護の者に、はっ? と言われてしまった。



 寝所に入る前、吉房は是頼に確認した。

「女御を狙わせたのが誰かわかったか」

「いえ、まだ吐きませぬ」

 そうか、と吉房は表情をくもらせる。

「斎宮女御様を狙っているものなどたくさんいるので絞れないですね。
 また、今回の犯人だけ見つけても意味はないです。

 次々刺客は現れます。

 誰の目にも明らかですからね。
 帝が女御様をご寵愛なさっていることが」

「……誰があれを寵愛した」
と睨んでみたが、

「今宵、女御様の許にいらっしゃらなくてよろしいのですか?」
と是頼に問われる。

「今、振られたばかりだろうが。
 一晩に二度も振られてこいというのか、私は帝だぞ」

「まあ、帝でなくとも、ちょっと恥ずかしいですよね~」

 是頼~っ。

「でも、簡単になびくような女は面白くないというではないですか。
 ま、私はそういった女は面倒臭いと思う方なんですけどね」

 いや、お前、慰めているのか。

 面倒臭い連中だと、鷹子ごと自分を突き落としているのかよくわからないんだが、
と思いながら、吉房は不敬な乳兄弟を見る。



「また女御様を狙ってくるものがいないか。
 わたくしたち、気合を入れて見張っておりますわっ」

 ……と聞いた気がする。

 近くに控えているはずの命婦のイビキを聞きながら、鷹子は起き上がった。

 夢にイビキとスイーツが出てきて寝られない。

 オープンカフェでスイーツ、あとカフェラテ。

 そんな妄想をしてみたが、鵺も鳴いていない都の夜は、ただただ静かだ。

 鷹子はもう一度横になり、目を閉じた。

 爽やかな風が頬に吹き付ける中、みんなでオープンカフェで食べたケーキやタルトやジェラートの味が忘れられない。

 単に女子高生だった自分を懐かしんでのことなのかもしれないが。


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