パクチーの王様 ~俺の弟と結婚しろと突然言われて、苦手なパクチー専門店で働いています~

菱沼あゆ

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そういえば、いつからそう呼んでいたんだろう

なんかイライラするな

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 逸人は、テンション低い圭太が鬱陶しくもあったが、ひとつ溜息をつき、
「日向子が、妊娠したとお前を脅すつもりはなかったと言っているぞ」
と教えてやると、圭太は黙る。

 こいつ、日向子にはなにもしてないのに、責任を取ろうとしたのかと思い、イライラした。

 圭太のその優しさにだ。

 お前のそういう優しいところに、芽以は惹かれていたんじゃないのか。

 今から極悪人になるつもりはないか? と圭太を見つめてみたが、伝わるはずもなく、圭太はそのまま、黙っている。

 っていうか、同じような顔で落ち込まれると、自分も落ち込んでる気がするから、やめてくれ、と思いながら、つい、言わなくてもいいことを言ってしまった。

「誰にでも優しい男は、誰にも優しくないのと同じだ。
 そんなことで芽以を泣かすな」

 芽以が泣く姿は見たくない。

 初めて此処に来たときの、芽以の何処かぼんやりとした様子を思い出していた。

 芽以に訊いたら、
『いやいや、それは、いきなり貴方と結婚しろと言われて、呆然としてたからですよ』
とか、健気なことを言い出しそうだが。

 だが、
「……わかってるよ」
と言う圭太の言葉を聞いたとき、すぐさま、

 いやいや、だからって、芽以を持ってかなくてもいいんだぞ、と思ってしまった。

 そのとき、
「逸人さん?」
と芽以の声がした。

 芽以が裏口のドアを開けようとする。

 逸人は圭太の姿を見られまいと、芽以が開けかけたドアを抑えて言った。

「戻れ、芽以。
 なまはげが出る」

 ……なまはげ? と呟く芽以を中へ押し戻し、
「すまん。
 二階から、俺の眼鏡を持ってきてくれ」
と言うと、芽以が、

「えっ? 眼鏡ですか?」
と訊き返してくる。

 かけたのを見たことがないからだろう。

 いや、持ってはいるのだが、ほぼ伊達眼鏡みたいなものなので、あまり必要のないものだ。

 芽以は小首を傾げながらも取りに行ってくれた。

 それを確認したあとで、振り返り、圭太に言った。

「兄貴。
 日向子と結婚すると覚悟を決めたのなら、日向子を大事にしてやれよ。

 結婚が決まる前より、不安定になってるぞ、あいつ」

 じゃあ、もう帰れ、と言うと、逸人は急いで中に入り、ドアを閉めた。



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