パクチーの王様 ~俺の弟と結婚しろと突然言われて、苦手なパクチー専門店で働いています~

菱沼あゆ

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ある意味、地獄からの招待状

親子ってそんなもんですよね

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 結局、食事会には行かないことになった。

 逸人も乗り気ではなかったからだ。

 ただ、芽以が相馬のご両親に挨拶をまだしていないことが気になっていたので、営業終了後、少しだけ挨拶に行くことになった。

 逸人の指示で買ったご両親の好みの手土産を手に、夜道を歩く。

 店から、すぐ近くだからだ。

「パクチー持ってってやりゃよかったな。
 あいつら嫌いだから」
と逸人は笑う。

 いや、貴方、ご自分の親御さんになんの恨みがあるんですか、と思ったが、男の人ってこういう物言いなのかもな、とも思っていた。

 聖も両親に対して、辛辣なことを言ったりもするが、自分よりも親思いなところもある。

 なんだかんだで、近所に家建てたし、入り浸ってるもんな~と思う。

 しかし、相馬のご両親がパクチー嫌いということは、子どもの頃、逸人たちが、無理やり呑み込んだり、吐き出したりしたパクチーはご両親にとっても苦手なものだったのか、と気がついた。

 大人は、大事な会食の席で、ゲーできないもんな。

 子どもたちに呑み込めと言いながら、自分たちは表情にも出さずに頑張ったのか。

 大人って大変だな、と改めて芽以は思う。

 しかし、私もそのうち、親になったりするのだろうか。

 なんだか今は想像もつかないんだが、と思いながら、つい、側に居る逸人を見上げてしまった。

 ……いやいや。
 別に逸人さんの子どもを産もうって言うんじゃないですけどね、と心の中で言い訳しながら。

 急に見上げてきたり、目をそらしたりする芽以を、逸人が胡散臭げに見下ろしたとき、芽以のスマホが鳴った。

『オッケーよ。
 もう店に着いてるから、いつでも来て』
とメッセージが入る。

 日向子が圭太を連れ出したようだ。

『あんたが来るのなら、私、圭太を連れ出すから、その隙に来なさいよっ』
と言われたのだ。

「日向子もなかなかせこい手を使うな」
と切ったスマホを見て、逸人が言う。

「いや……でも、ちょっと気持ちはわかります」
と芽以が言うと、逸人は、ん? という顔でこちらを見た。

 暗闇にそびえる相馬の屋敷は、もうそこに見えていた。


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