55 / 101
あの人も来ました……
私に私の気持ちがわからないのに、何故、貴女にわかるのですか?
しおりを挟む日向子は芽以に向かって言い出した。
「まあ、逸人でいいんじゃない?
頭もいいし、格好いいし。
真面目だし……
なに睨んでんのよ」
「私、睨んでますか?」
と芽以は自分でも不思議に思い、訊き直した。
「いや……、睨んでるっていうか、強張ってるけど?」
と日向子は言ってくる。
そうなのか。
自分ではよくわからないんだが、と思いながら、頰に手をやると、日向子は、ははん、と笑い、
「さては、あんた、自分の彼氏が一番いいと思ってるタイプね。
悪いけど、私、逸人には興味ないから」
と言ってきた。
一瞬、なにを言われたのかわからなかった。
私の彼氏……
とは誰だ? と思っている間に、
「わかってたわよ」
と言いながら、日向子は立ち上がる。
「あんたが本気で圭太を好きなら、きっと、圭太は家を捨てて、あんたのところに行っていた。
あんたの気持ちが圭太を向いてないから、圭太はそこまで押してはいかなかったのよ。
……捨ててやりたいわ、私も圭太を。
でも、好きなのよ」
こちらを見ずに、真摯にそう言う日向子を見上げ、芽以は思っていた。
可愛い人だな、と。
こちらを見下ろし、ふっと笑った日向子は、
「帰るわ」
と言う。
日向子は代金を払おうとしたが、逸人は断った。
「じゃあ、今度、お祝い持ってくるわ」
と言い、日向子はスマートに引き下がる。
そして、こちらを振り返ると、
「でもまあ、此処に来て、収穫はあったわ。
貴女が今でも圭太を好きなわけじゃないとわかっただけで」
と言ってくる。
いや、私にも私の気持ちがわからないのに、どうして、貴女にわかるのですか?
そう思いながらも、芽以は、特には突っ込まずに日向子を見送った。
店内に戻ると、逸人が腰に手をやり、こちらを見ていた。
「女王様が元気になって帰っていったが、いいのか」
と訊いてくる。
「いけませんか?」
と芽以が言うと、逸人は微妙な顔でこちらを見ていた。
「女王様が元気になって帰っていったが、いいのか」
そう逸人が言うと、芽以は、
「いけませんか?」
とほんとうに不思議そうな顔で、こちらを見、訊き返してくる。
こいつの気持ちがわからない、と逸人は思っていた。
お前、圭太が好きだったんじゃないのか?
日向子に同情して、もう圭太はどうでもよくなったのか?
では、形ばかりの夫である俺など、もっと簡単に捨てられるのだろうか。
チラと横に居る静を見る。
静なんか、いい男だし、いいヤツだし。
俺が女だったら、絶対、惚れると思う。
こいつを芽以のそばに置いておくと、芽以はこいつを好きになってしまうに違いない。
「静」
と呼びかけると、静が、なんだ? とこちらを向く。
「絶交してくれ」
「今、お前の頭は何処まで行っている……」
すぐに発想が飛ぶ自分の性分を知る静に、
「帰ってこい」
と言われてしまった。
1
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜
雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。
【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】
☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆
※ベリーズカフェでも掲載中
※推敲、校正前のものです。ご注意下さい
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ルナール古書店の秘密
志波 連
キャラ文芸
両親を事故で亡くした松本聡志は、海のきれいな田舎町に住む祖母の家へとやってきた。
その事故によって顔に酷い傷痕が残ってしまった聡志に友人はいない。
それでもこの町にいるしかないと知っている聡志は、可愛がってくれる祖母を悲しませないために、毎日を懸命に生きていこうと努力していた。
そして、この町に来て五年目の夏、聡志は海の家で人生初のバイトに挑戦した。
先輩たちに無視されつつも、休むことなく頑張る聡志は、海岸への階段にある「ルナール古書店」の店主や、バイト先である「海の家」の店長らとかかわっていくうちに、自分が何ものだったのかを知ることになるのだった。
表紙は写真ACより引用しています
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる