パクチーの王様 ~俺の弟と結婚しろと突然言われて、苦手なパクチー専門店で働いています~

菱沼あゆ

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あの人も来ました……

……来ました

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 ありゃ全然進展なさそうだなー、と思いながら、静は店の外に出た。

 まあ、逸人だからな、と思う。

 あれだけ頭が切れてイケメンでも、まったくそういうことには疎うとい奴だから。

 だが、おままごとのようなカップルが新鮮で可愛らしく。

 まあ、あそこは、あのままで居て欲しいような気もする、と思ったとき、何故か、肩にかけたフェンディのピンクのファーを持ち上げ、顔を隠すようにして、店内を覗いている女が居る。

「この店になにか用?」

 たいして考えもなしに声をかけると、女はビクリと振り向く。

 ショートカットで目許のきつい美女だ。

 いい女だな、と思う。

 同じ上品そうな美人でも、芽以とは対照的だ。

 芽以は、ふんわりして可愛い感じだからだ。

「なにも用はないわ。
 このガラスでコンタクトがずれてないか、チェックしてただけよっ」
と険のある声で言ってくる。

 うわー、いろいろとめんどくさそうな女だなーと思う。

 ゴージャスな美人だが。

 チェスターコートのポケットに手を入れ、黙って女を見ていると、逃げればいいのに、逃げなかった女は沈黙に耐えかねたように言ってきた。

「……貴方、この店から今、出てきたけど。
 お店の人のお知り合い?

 私が此処に居たって言わないでね」

 うん、わかった、と言った瞬間、静は芽以が店を開けるために鍵を開けるのを見た。

 なにも考えずに、ガチャリとドアを開ける。

「あっ、おはようございますっ」
と驚いたように言う芽以に向かい、言った。

「芽以ちゃん、お客さん」

「ちょっとーっ!?」
と後ろで、女が叫んでいる。

 静が振り返り、
「いやあ、スッキリするかと思って」
と言うと、

「なにがよっ」
と怒鳴ってきた。

 見た目通り、気が短いようだ。

 いやいや。
 そんなとこから覗いてるより、なんだかわからないが、直接、話した方がすっきりすると思うんだが。

 ――と心の中だけで思う。

 そのとき、苦笑いして、こちらの様子を眺めていた芽以の後ろから逸人が現れた。

「……日向子、どうした」
と驚いたように言う。

 芽以が、ええっ? この人が日向子さんっ? と小声で言い、何度も逸人を振り返っていた。



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