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圭太の語る真実
どうか今日はこのままで――
しおりを挟む夜、二階の廊下を歩きながら、芽以は思い出していた。
自分を見つめ、
「好きだ、芽以。
ずっとお前のことが好きだった」
と言った圭太のことを。
だが、芽以の心に引っかかっていたのは、告白してきたときの顔よりも、
「……なんだ、言えたな。
今、言えなくてもいいのに。
今、言っても、どうにもならないのにな」
と呟き、寂しそうに笑った顔だった。
芽以は無言で廊下を歩き、無意識のうちに、逸人の部屋の戸をノックしていた。
「はい」
と返事があった瞬間に開け、部屋に入ると、なにも考えずに、スポッと寝ている逸人の腕の中に収まった。
うわっ、と逸人が声を上げる。
「すみません。
逸人さん。
明日、なんでも貴方の言うこと聞きますから、今日は、このまま居させてください~」
と芽以は、その胸にすがりつく。
逸人の匂いがした。
落ち着く匂いだ。
今、なによりも落ち着く匂い……。
それより、少し前、逸人は部屋の電気を消してなお、明るい天井を見ながら、逸人は芽以のことを考えていた。
芽以のこと、そして、圭太のことを。
やっぱり、あいつは人がいい、と思う。
思い詰めて、妊娠したとか言い出した日向子のために結婚してやることにしたんだったとは。
砂羽が言うように、俺の方がロクでもない男だから、芽以を手に入れられたのか。
いや、入ってないが……と思ったとき、誰かがドアをノックした。
まあ、誰かって。
芽以しか居ないが。
こんな時間にどうしたのだろう、と思いながら、ベッドから半身を起こす。
「はい」
と返事をしつつ、
まさか、圭太に告白されたので出て行きますとか言わないだろうな、と思っていると、なにか考えている風に、一点を見つめた芽以が、とっとっとっと、とやってきて、いきなり、布団をめくると、スポッと、腕の中に収まった。
うわっ、と声を上げてしまう。
どうしたっ、芽以っ。
実は俺のことが好きだとかっ?
と思っていると、自分の両腕をつかんできた芽以が、
「すみません。
逸人さん。
明日、なんでも貴方の言うこと聞きますから、今日は、このまま居させてください~」
と言って、胸に小さな額をこすりつけてきた。
なんでも俺の言うことを聞くって……。
……明日じゃなくて、今がいいんだが、と思ったあとで、
まあ、こいつのことだ。
言うことを聞くって、きっと仕事のこととかなんだろうな、と思い直す。
口に出して訊いたら、平然と、
「それ以外のなにが……?」
とか小首をかしげて言いそうだ、と思いながら、そっと芽以の背に手をやった。
「じゃあ――
今日だけだぞ」
と囁いて。
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