パクチーの王様 ~俺の弟と結婚しろと突然言われて、苦手なパクチー専門店で働いています~

菱沼あゆ

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開店前の一番の難問

オープンが近づいてきましたっ

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 なんだかんだで、日は過ぎ、芽以は職場の荷物を片付けつつ、開店準備を手伝った。

 しかし……やったことがないのだが、ウェイトレスとか。

 上手く出来るだろうか。

 オープンが近づいてきて、芽以はいよいよ不安に思う。

 此処には先輩の店員も居ないので、誰かに教わることもできない。

 レストランのゲームはよくやるのだが、ああいうのじゃないだろうしな。

 あのゲーム、外国のゲームなので、物は投げるように置くし、客に動きがないときは、店員なのに、欠伸をし始めるし。

 うむ。
 参考にならないな……。

 ゲームを参考にしようというのが、そもそもの間違いなのだろうが。

 ホールに立ち、頭の中で仕事する自分をシミュレーションしていた芽以は振り返り、厨房に居る逸人に訊いた。

「あのー、ウェイトレスって、どんな風にしたらいいんですかね?
 なにか極意とか、気をつける点とかありますか?」
と訊いてみたのだが、ソースの味見をしていたらしい逸人は、チラ、とこちらを見たあとで、

「本を読め」
と言ってきた。

「この世の中の大抵のことは本に書いてある」

 ……この人も私レベルに駄目な人のような気がしてきた。

 ゲームに頼る店員、本に頼るシェフ。

 大丈夫だろうか、この店。

 まあ、特に宣伝もしてないし、そんなに、てんてこまいするほどお客さん来ないだろうしな、と思い、とりあえず、気を落ち着けることにした。

 失敗しようものなら、この帝王様にどんなお叱りを受けるかわからないからだ。

 仕事中は厳しいが、普段はやさしい……

 とか言うわけでもないしな、と最早、こちらには興味を失ったように、ソースの入った小鍋を見つめている逸人を見る。

 でも、初めて、此処に引っ越して来た日、部屋を暖めてくれていたのは、逸人だったし。

 あのスノードームもどうやら、クリスマスだからと飾ってくれていたらしい。

 スノードームを手に、
「お忘れでしたよ」
と翌日言ったら、

「使ってない部屋になにを忘れるんだ。
 あれはあそこに置いておけ。

 お前が気に入らないのなら、廊下にでも出しておけ」
と素っ気なく言われた。

 昼間、食器などを買い足すときに見つけて、可愛いから買ったのだと言う。

「俺が持ってても仕方ないだろう。
 お前がいらないのなら、捨てろ」
と喧嘩腰に言ってくるが、要するにクリスマスプレゼントということなのだろうかな? と思った。

 包んでもいないところがこの人らしいというか。

 でも、クリスマスだし、私もなにかあげるべきだったろうか、と後から思ったのだが。

 あまりの忙しさに、あっという間に、クリスマスな雰囲気の残る期間さえ、終わってしまった。

 っていうか、何故、このせわしない年末にオープンするんだ。

 この洋風な店に、注連飾り似合わないしっ、と買い出しに行ったとき、ついでに注連飾りを買いながら、芽以は思った。

 今更、下手に気を使ってお返ししても殴られそうだなあ。

 お礼にとお年玉でも渡したら、もっと殴られそうだし。

 そうだ。
 もし、来年まで一緒に居たら、少し多めにクリスマスプレゼントをあげようかな。

 いや、もし、来年まで一緒に居たらって、夫婦もどうかと思うが……。

 などと考えながら、疲れ果てた芽以は、意味があるのかないのかわからない南京錠をかけ、今日も爆睡してしまった。



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