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娘さんをください
実家に挨拶に来ました
しおりを挟む芽以は門の前で、家の灯りを見たとき、はた、と気づいた。
なにも言わずに来てしまったと。
「なにしてる?」
と逸人が訊いてくる。
いきなり、芽以が鞄をゴソゴソやりだしたからだろう。
「いえ、貴方を連れてくると親に行ってなかったので」
「まあ、すぐに帰るが、そうだな。
一応、連絡しろ」
と言っているうちに、ガチャリと玄関が開いた。
「雪降ってるってばーっ」
と言いながら、五歳になる兄の息子の翔平が飛び出してきた。
兄が、
「寒いぞ、これを着ろ」
と上着を手にそれを追ってきて、こちらを見、おっ、と言う。
「……逸人じゃないか」
と言ったあとで、後ろを向き、
「おかーさん、逸人の方が来たー」
と言っている。
『の方が』ってなんですか、お兄様……と思っていると、サンダルを引っ掛けて出てきた兄、聖は、
「いやあ、悪い悪い。
昨日のイブ、ケーキ食いに来いって誘ったら、芽以が、圭太と会うって言ってたから、てっきり、圭太を連れてきたのかと」
と悪びれもせず言う。
「お久しぶりです」
と逸人はそんなことを言われても、特に嫌な顔もせず、手土産に買ってきた酒を渡していた。
「おっ。
わかってるじゃないか、逸人~」
とクリスマスなのに、何故か日本酒を持ってきた逸人の肩を叩き、まあ、入れ入れ、と言う。
……そういえば、日本酒好きだったな、お兄ちゃんもお父さんも、と如才ない逸人をチラと見る。
「ほら、早く入れ、芽以。
ドア開けてたら寒いだろ」
と言われたが、芽以ちゃん、遊んで~っ、と腕を引っ張り、外に飛び出そうとする翔平に阻まれ、なかなか入れなかった。
「あー、寒かった」
然程降っていない雪を手のひらに集めるとかいう翔平の無茶ぶりに付き合って冷え切った芽以が居間に入ると、もう逸人はみんなと歓談していた。
……私を見捨てましたね、と恨みがましく見たが、逸人は素知らぬ顔をしている。
おのれ……と思いながら、
「芽以ちゃん、翔平に付き合ってくれてありがとう。
ご飯は食べた?
ケーキはどう?
お菓子も、昨日、たくさんいただいたのがまだあるのよ。
よかったら、食べて」
とやさしく声をかけてくれる義姉の水澄に感謝する。
「ありがとうございます、水澄さん~っ」
と手を握ると、あらあら、と笑っていた。
血のつながった身内は薄情なので、水澄が一番気を使ってくれる人だ。
よく翔平を遊びに連れていってやってるせいもあるかもしれないが。
「ご飯は軽く食べてきました。
ありがとうございます」
と言いながら、チラと逸人の方を窺う。
ふと気づけば、母は逸人をもてなしながら、なにやら落ち着かなげに、何度も逸人を見つつ、口許が笑っている。
……なにかの言葉を期待してやしませんか? お母さん。
父は逸人と話してはいるのだが、同じソファに座っているのに、距離をとっていて、少し機嫌が悪いようにも見える。
普段は、ちょっとやかましすぎる圭太より逸人の方が話が合うようだったのに。
まあ、クリスマスの夜に連れてくるったら、大抵、そういう仲だと思うよな~。
みんなでやってきたことはあるが、逸人ひとりなのは初めてだから。
というか、みんなの顔に書いてあるのだが――。
『お前、昨日、会ってたの、圭太じゃなかったか?』
と。
……いや、私も何故、こうなったのか、よくわからないんですけどね、と思っていると、母親の、早く早くーっという視線に耐えかねたように、逸人が口を開いた。
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