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限りなく怪しい客
あれはなんだ……?
しおりを挟む気のせいだろうか。
庭の真ん中に、あってはならないものがあるような。
それから数日後、ようやく時間が空いたので、猫町3番地を訪れた将生は、美しい庭園のど真ん中に面妖なものが建っているのを見た。
二宮金次郎に見えるんだが……。
首をひねりながら、店の中に入ると、琳はカウンターで何故か古いカメラを見つめている。
「雨宮、あれはなん……」
あれはなんだ?
と訊きかけた将生は、そのカメラを見つめる琳の目がなにか困っている風なのに気がついた。
「どうした?」
と問うと、琳はカメラを見たまま言う。
「いえ、ちょっと奇妙なことがあったんです」
「あれよりもか……」
と庭の二宮金次郎を見ながら、将生が言うと、ああ、と顔を上げた琳は、将生の視線の先を追った。
「小学校の庭にいらっしゃった二宮金次郎さんです。
歩きスマホを誘発するとか言われて、撤去されたんですけど。
捨てるの可哀想だから、ちょっと置いといやってって造園業者さんが――」
「お前のとこの造園業者は、此処を物置かなにかだと思ってないか……?」
あんな美しい庭を作っておいて、時折、自ら景観を損ねるものを持ってくる。
会ったことはないが、その造園業者も変わり者の匂いがする、と将生は思っていた。
「でも、意外と評判いいんですよ、懐かしいって。
みなさん、小学校時代の話に花が咲いていらっしゃいます。
昨日なんか、近所の幼なじみで結婚されたご夫婦が別れ話をしにいらしたんですけど。
金次郎さんを見て、
『あ~、昔、よくあれ、校庭を走ってたよね~』
とか懐かしくお話しされて。
結局、仲良く帰られましたよ」
「いや、金次郎、校庭走ってないだろ……」
「意外とあのまま置いててもいいかもと思ったんですが。
一応、もらってくださる方、募集中だそうです。
宝生さん、いかがですか?
眺めていると、ピュアな気持ちになれそうですよ」
と琳は言ってくる。
「いや……結構だ。
ところで、そのカメラはなんだ?」
と言うと、琳は、
「おじいちゃんに借りてきたんですけどね」
と年代物のカメラを手に渋い顔をした。
「おじいちゃんがこれで写真撮ってこいって言うんですよ」
「金次郎のか?」
なんでですか、と眉をひそめた琳は、
「小柴さんのですよ」
と言う。
「小柴?」
「小柴さんの話、あの、おじいちゃんがお店やってた頃も来てた大学の先生、で通じてたんですけど。
昨日、おじいちゃんが、
『待てよ。
小柴って名前だったかな?』
って言い出して」
「今度は偽名疑惑か?」
「いや、大学で偽名とか難しいと思うんですが」
「そもそも、ほんとにあの男、准教授なのか?
単に大学の封筒持ってはウロウロしているだけの、ヤバイ奴かもしれないじゃないか」
「いや、なんのために……」
と琳は苦笑いする。
そりゃ、本好きのインテリを装って、お前に近づくためだろう、と思っていたが、言わなかった。
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