52 / 79
私の後宮に入れてやろう
裏切り者っ
しおりを挟む次の日、アローナとアハトはちょっとした手土産とともに、レオのいる離宮を訪ねていた。
「結構な豪邸ですね。
ジン様は、なんだかんだでお父様に甘いですね。
何故、石牢とかに入れないのでしょう」
アラベスク模様のタイルと透かし彫りが随所に散りばめられた美しい宮殿の中を見回しながら、アローナが呟くと、
「私は誰よりあなたが恐ろしいです……」
と青ざめ、アハトが言ってくる。
一応、知らせは出していたので、すぐに迎えの衛士たちにより、謁見の間に通された。
そこには、ジンが座る玉座ほどは大きくも高くもないが、それに類似したものがあった。
そこに腰掛けるレオを見て、まだまだ王様ですよね、と苦笑いしながら、アローナは運ばせた手土産をレオに見せた。
「どうぞ、レオ様。
ジン様と奪い合って勝ち取ってきた菓子です」
と言うと、アッサンドラから連れてきた若い侍女が菓子の入った銀の箱を手に前に進み出る。
玉座の肘掛けで頬杖をつくレオは、
「なんだかものすごく価値がありそうに聞こえるが……。
ただの焼き菓子だろう。
お前は口が上手いな」
と言ってきた。
「それと」
とアローナは振り返り、並んだ大きな陶器の酒壺を手で示して言う。
「兄が置いていった酒です」
「……五つしかないようだが。
中に美女でも入っているのか」
いや、酒樽千個なんて我々には用意できませんからね、とアローナが思っていると、
「では、今から入れましょう」
と言いながら、アハトがアローナの腕をつかんできた。
「アハト様っ。
この間、あなたは正妃になられる方だから大事に扱わないとって言いましたよ~っ」
ひーっ、と怯えてアローナは叫ぶ。
レオに気に入られるためなら、本当にやりそうだと思ったのだ。
案の定、アハトは、しれっとした顔で言ってくる。
「正妃様なら、その身を挺して、この場をなんとかしてくださいっ。
そもそも、あなたはレオ様の褥にはべるために、貢ぎ物としてこの国に来られたんでしょうが」
じゃあ、いいでしょうっ、
となにもよくないことを言ってくる。
「ひーっ。
裏切り者ーっ」
「そもそも結託してませんっ」
と揉めるふたりを眺めながら、レオは毒見係も通さずに、焼き菓子を口にし、うん、美味い、と呟いていた。
0
お気に入りに追加
538
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?
まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。
うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。
私、マーガレットは、今年16歳。
この度、結婚の申し込みが舞い込みました。
私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。
支度、はしなくてよろしいのでしょうか。
☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。
地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件
フランジュ
ファンタジー
地区最強のヤンキー・北条慎吾は死後、不思議な力で転生する。
だが転生先は底辺魔力の下級貴族だった!?
体も弱く、魔力も低いアルフィス・ハートルとして生まれ変わった北条慎吾は気合と根性で魔力差をひっくり返し、この世界で最強と言われる"火の王"に挑むため成長を遂げていく。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
追放された薬師は騎士と王子に溺愛される 薬を作るしか能がないのに、騎士団の皆さんが離してくれません!
沙寺絃
ファンタジー
唯一の肉親の母と死に別れ、田舎から王都にやってきて2年半。これまで薬師としてパーティーに尽くしてきた16歳の少女リゼットは、ある日突然追放を言い渡される。
「リゼット、お前はクビだ。お前がいるせいで俺たちはSランクパーティーになれないんだ。明日から俺たちに近付くんじゃないぞ、このお荷物が!」
Sランクパーティーを目指す仲間から、薬作りしかできないリゼットは疫病神扱いされ追放されてしまう。
さらにタイミングの悪いことに、下宿先の宿代が値上がりする。節約の為ダンジョンへ採取に出ると、魔物討伐任務中の王国騎士団と出くわした。
毒を受けた騎士団はリゼットの作る解毒薬に助けられる。そして最新の解析装置によると、リゼットは冒険者としてはFランクだが【調合師】としてはSSSランクだったと判明。騎士団はリゼットに感謝して、専属薬師として雇うことに決める。
騎士団で認められ、才能を開花させていくリゼット。一方でリゼットを追放したパーティーでは、クエストが失敗続き。連携も取りにくくなり、雲行きが怪しくなり始めていた――。
【完結】最後の魔女は最強の戦士を守りたい!
文野さと@ぷんにゃご
ファンタジー
一人ぼっちの魔女、ザザは、森の中で暮らしていた。
ある日、泉で溺れかけていた少女を助けようとして、思いがけず魔力を使ったことで自身が危険な状態に陥ってしまう。
ザザを助けたのは灰色の髪をした男だった。彼はこの国の王女を守る騎士、ギディオン。
命を助けられたザザは、ギディオンを仕えるべき主(あるじ)と心に決める。しかし、彼の大切な存在は第三王女フェリア。
ザザはそんな彼の役に立とうと一生懸命だが、その想いはどんどん広がって……。
──あなたと共にありたい。
この想いの名はなんと言うのだろう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる