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さすがは娼館の女だな

出来のいい侍女は厄介だ

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「何故、姫様を連れて帰っては駄目なのですか? 王よ」
とジンは侍女に詰め寄られていた。

「それは……」
と言い淀んでいると、侍女はジンを一睨みし、

「陛下。
 もしやもう、姫様をキズモノになさったとか?」
と非難がましく言ってくる。

「ま、まだなにもしてはいない」

 そううろたえる自分の前で、え、まだ? とアローナが怯える。

「なにもしてないのならいいではないですか」
と言い放った侍女は、

「では、姫様を連れて帰ります」
と言い出した。

「じゃあ、今からアローナをキズモノにするから、ちょっと待てっ」
と今にも連れ去られそうなアローナの腕をつかんだままジンは言う。

 いやいやいや、勘弁してくださいっ、
とアローナがまた謎のジェスチャーをしながら言ってきたので、ジンが、

「いや、お前しゃべれるから」
と教えてやると、声が出ていることに気づいたアローナは苦笑いしていた。

 表情とジェスチャーで伝えるのが癖になっていたようだ。

「ともかく、一度連れて帰ります。

 王よ、本気で姫様の輿入れを望むのなら、我がアッサンドラの王に婚姻を願い出るところからやり直してください。

 ささ、姫様」
と侍女はアローナの手を引き、城の玄関扉に向かおうとする。

「待てっ。
 遠いだろうが、アッサンドラッ」

 出発して到着するまでに、花婿であったはずの王が追い落とされ、いなくなるほどにっ。

「わかった。
 アッサンドラには使いを出すっ。

 返事が来るまで、アローナは此処にとどまるがよい!」

 そう慌てて叫ぶと、アローナの手をつかんだまま侍女は足を止め、ジンを見据えた。

 その顔つきに、ジンは、まだ年若い侍女ではあるが、なんとしても姫を守ろうと言う気概が感じられ、頼もしいな、と思っていた。

 アローナに良い侍女がついていることを嬉しく思う。

 ……まあ、出来のいい侍女、今はちょっと邪魔なんだが、と思いながらも、ジンは姫思いの侍女に向かい、訴えた。

「大丈夫だ。
 ちゃんと手順は踏む。

 私はアローナを妻に迎えたいのだ」

 その言葉に、アローナが驚いた顔をする。

「なんというか、ひとりは妃がいるな、と思っていたので。
 アローナがいてくれると、ちょうどいいのだ」

 それを聞いた侍女とフェルナンが、何故か、あ~……と残念なものでも見るかのような目でこちらを見た。

「どうなさいます? 姫様」

 ちょっと溜息をついたあとで、侍女がアローナに訊く。

 アローナは青ざめ、こちらを窺っていた。

 此処に残ったら、キズモノにされるのだろうか……?
という心の声が此処まで届いてくるような表情だった。

 いや、もちろん、いずれするが。

 嫌がるお前に無理やりということはない、とジンは目で訴える。

 アローナは迷いながらも、
「あ、あの……また今すぐ砂漠を越えるのは」
とちょっと困ったように侍女に言っていた。

 侍女は少し考えたあとで言う。

「……そうですわね。
 また盗賊に連れ去られても困りますわね。

 わかりました。
 しばらく此処でアッサンドラからの返事を待ちましょう。

 メディフィスの王よ。
 国からの返事が来るまで、姫には手を触れないでください。

 姫が望まぬ限り」

 何故か侍女に仕切られている……と思いながらも、ジンは、

「わかった。
 約束しよう」
とその提案を受け入れる。

「皆の者、準備をせよ。
 アローナ姫とその一行を我が国の大事な客人としてもてなす準備を」

 はい、と事の成り行きを見守っていた城の者たちが動き出した。

 近くまで来たフェルナンが小声でささやいてくる。

「ジン様。
 かなりかかりますよ、アッサンドラまで。

 返事かあるまで姫に手を触れないと約束してしまって、ほんとうによかったんですか?」

 ジンは一瞬考えたあとで、アローナの手を取り、言った。

「アローナ、鷹を呼べ。
 いい餌をやるから、休みなく飛べと言え」

 は、はあ、とアローナは困った顔をする。



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