あやかし吉原 弐 ~隠し神~

菱沼あゆ

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隠し神

どうして、そう思った……?

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 穴蔵屋の使いの者がやってきた。

 ぱっと見、普通の商家の手代かなにかのように見える男たちだった。

 向こうは自分たちが持っていくと言ってきたが、左衛門は断った。

「その穴蔵を見せて欲しい。
 そうでなければ信じられない。

 お前たちが持ち逃げするかもしれないじゃないか」
と左衛門は言った。

 使いの者たちは、面倒臭い客だな、という顔をしていたが。

 相手が金に汚い楼主だとわかっているので、まあ、そんなものか、と納得したようだった。

「では、丑の刻に、お連れてしましょう。
 その代わり、目隠しはさせてもらいますぞ」

「いいだろう」
と頷く左衛門に、男たちが問う。

「まさか、楼主様自ら行かれるのですか?
 信用のおける若い者でも寄越してください」

「何故、私ではいけないのだ」

 いや、このごうつくばりな楼主を目隠しして連れ出して。

 怪我でもさせたら、逆に金をふんだくられそうだからではないだろうか……と横に立って見ながら、那津は思っていた。

 困った男たちは、那津をチラと見、
「では、そこの用心棒の方でどうですか」
と言ってきた。

 ……何故、俺を用心棒だと思った、と思ったとき、左衛門が言った。

「わかった。
 この用心棒と私でどうだ。

 私に何事もないよう、この用心棒が守る。
 お前たちに手間はかけさせない」

 ……粘るな、左衛門。
 何故だ……。

 というか、何故、俺がお前の用心棒なんだ……と思ったが、それで話がまとまってしまった。

 男たちも面倒臭くなったのだろう。

 奴らが帰ったあと、隠れて聞いていた咲夜が、
「いいなあ。
 私も行きたい……」
と子どもがぐずるように何度も言ってくる。

 昔のお前ならともかく、今のお前は無理に決まってる、と思いながら、那津は頭が重そうな感じに着飾っている咲夜を見た。

「おい、咲夜。
 今日の客はどんな爺さんだ」

「今日は巳波みなみ屋の若旦那よ。
 ……だから、きっと途中で帰ると思うわ。

 いっそ、客が居てくれた方がまだマシなんだけど」
と言って、行ってしまった。

 左衛門を見ると、左衛門は視線をそらしてしまった。

 那津は溜息をつき、階段を上がっていく咲夜を見送る。


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