上 下
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隠し神

怪しい男

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 大名は怪しんでいた。

 何故、私に隠し神のことを訊いてくるのだ、この男は。

 この顔で――

 上様によく似たこの顔で。

 いや、上様もだが、上様の御嫡男、家秋いえあき様にもよく似ている。

 実は、これ、家秋様の変装なのでは……。

 今までに将軍の顔を見る機会はあったが。

 常に平伏しているので、まじまじと見られるわけもなく。

 将軍どころか、家秋の顔ですらも、そんなに見る機会はなかった。

 よく見れば似ていないところもあったのだが。

 本人と近しくない人間が見るときには、これだけ似ていれば充分だろう、というくらいには似ていた。

「あっ、さっきの生臭坊主っ」

 七郎とか言う岡っ引きがまたやってきて、那津と揉め始める。

 他人事ながら、大名は、ひいっ、と固まった。

 やめろ。
 そのお方は、将軍家と縁続きの方かもしれないのだぞっ。

 ただ顔が似ているというだけではない。

 那津は、その雰囲気までも、将軍家の人間たちと、そっくりだった。

 とても赤の他人とは思えない。

 だが、そんな男が、何故、私がなくした物のことを……。

 まさか、なにもかも知っていて、私を泳がせていたのかっ。

 青ざめる大名を那津は見下ろし、少し小声になると、顔を近づけて言った。

「そう固くなられなくても良いのですよ。
 あなたがなにを無くしていたとしても追及は致しません。

 ただ、この先、その無くしたものが出てきたあかつきには、愉楽を通じ、私にそのことを伝えてください」

「わ、わかりましたっ」

 大名は、こくこくと頷くと、慌ててその場を逃げ出した。

 口調こそ、丁寧だが。
 那津には、大勢に命令する側の人間特有の雰囲気があった。


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