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隠し神
二代目明野の秘密
しおりを挟む男たちがそれぞれでまた呑みはじめると、改めて、那津の描いた絵を眺めながら、隆次が言った。
「店では見せない桧山の顔だな」
「そうなのか?」
「桧山の普段の顔だ」
と隆次は言う。
いや、お前はいつ見たんだ、その桧山の普段の顔、と那津は思っていた。
なんだかんだで、桧山は隆次には気を許している気がする。
明野と思いを交わし合っていたこの男には、すでに、自分の罪を幾つも知られているから。
それで、身構えなくていいのかもしれないが――。
「すまねえな、那津」
と小平はその絵を受け取り言う。
「なんでもいいが。
この絵の桧山は艶っぽくていい。
これを買い取ったその若旦那は、今日も居続けだろうよ」
絵を付け狙う弥吉の目から隠すように、小平は絵を丸めて袂に入れていた。
「あっ、もっと見せてくださいよっ。
那津さん、僕にも描いてくださいっ」
と弥吉が叫ぶ。
那津たちがそんな話をしている頃、咲夜は今日の客に、また帰られようとしていた。
此処に来ていることが、結婚したばかりの妻にバレてしまい。
妻が、おかんむりらしい。
妻の実家の力が強いので、機嫌を損ねたくないと、せっかく登楼したばかりなのに、男は家に戻ろうとしていた。
「帰ってしまわれるのですか?」
咲夜は困ったように、その大店の息子を見上げる。
「いや、すまないね。
すぐに戻らないと、ちょっとまずくてね。
いろいろと弾んでおくから」
左衛門は金さえもらえれば、客が残ろうが、帰ろうが。
どうでもいいようで、下で若旦那の話を聞いても、引き止めもしなかった。
すがりつくように見る咲夜を愛しく思ったのか、若旦那は、
「そんな顔しなくても、また来るから」
と咲夜の頬に触れてくる。
だが、その瞬間、咲夜は首の後ろ辺りが、ぞくっと冷たくなった。
思わず、振り返ると、左衛門も無言で、咲夜の後ろを見ている。
左衛門にはすべて見えているのだろうか――。
咲夜は思っていた。
――どうせ、普通の客は私には触れられない。
『あれ』よりも力が弱いから。
だから、どちらかと言えば、この客が残ってくれた方がいいのだが……。
だが、すぐに戻らねばまずいと言う客を引き止めるわけにもいかない。
客の妻と揉めると、客がますます来づらくなるからだ。
大人しく客を送ったあと、咲夜は内所の前を通ったが。
左衛門はもうこちらを見もしなかった。
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