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隠し神

待ち伏せ

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 他の湯屋とは格式が違う感じのその湯屋は、まだ真新しい木の香りがした。

 しばらく湯屋の前で待っていると実助が現れる。

「ほら、莫迦旦那、やっぱり日が高くなってから現れやがった」
と隆次が愚痴る。

 待っている間、隆次が吉原に居た頃の知り合いが通りかかって話したりして、それなり暇潰しはできたのだが。

 やはり、隆次は時間を持て余していたようだった。

 左衛門は高い湯屋に入る金はくれなかったので、実助が入る前に偶然を装い、声をかけた。

「おや、旦那。
 旦那は桧山のところにお泊まりの旦那ですよね」

 なんだ? この坊主、という感じに実助がこちらを見る。

 この吉原では、している格好がほんとうの職業ではないが。

 坊主に扮する奴は居ないので。

 まあ、こいつ、ほんとうに坊主なんだろうな、という顔をしていた。

「私、この近くの寺の坊主なのですが。
 吉原には時折、絵の修行に来させてもらっています」

「ほう、絵の?」
と多少興味が湧いたように実助は訊き返してくる。

 なんで、坊主が吉原に絵の修行に来るんだよ、という顔を隆次はしていたが。

 実助は特に気にしていないようだった。

「そうだ。
 以前、扇花屋で描かせていただいた桧山の絵がことのほかよく描けてましてね」

 ゴソゴソと那津が袂から、絵を取り出してくると、隆次が、いつの間にっ? という顔をする。

 いや、昨日、実助の寝顔を確認したあとで、ささっと描かせてもらったのだ。

「手前どもの寺もこのご時世、なかなか苦しくて。
 桧山のところに居続けされている旦那なら、絵が気に入れば、買い取ってくださるのではないかと」

「ほう、見せてみろ」

 実助は、色まではついていないその絵を手に取った。

「こうしてみると、いい女だな、やっぱり」
とにやにやしている。

「うん、気に入った。
 実物より艶っぽいくらいだ。

 買ってやろう」

 ありがとうございます、と値段の交渉をしながら、那津は世間話のように言った。

「そういえば、旦那のところにも出たらしいですね、隠し神」

 すると、実助はぎくりとした顔をする。

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