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海里のろくでもない日常
ずっとこうしていたいです
しおりを挟む風呂から出、窓を開けて、リクライニングチェアーで涼むあまりは、字を見ると、落ち着くと言って、その持ってきていたエスペラント語の本を読んでいた。
気が紛れるらしく、声に出して読んでいる。
「Mi esploros vian pulson.
脈を取ります」
自分でか。
「C^u vi havas apetiton?
色欲はありますか?」
「食欲だろうが……」
とついに声に出して突っ込んでいた。
あまりの頭の上に立ち、
「あるぞ、色欲なら」
と言ってやる。
覗き込んだあまりの顔は、はは……と笑っていたが、少し楽になったせいか、眠そうだった。
おいおい。
まさか、このまま寝るとか?
なにしに来たんだ。
いや、社員旅行だが、と思いながらも焦る。
「海里さん……」
と本を下ろしたあまりが、ぼんやりしたまま、窓の外を見て言ってきた。
「いい月ですね」
なるほど。
窓の外には、山の上に大きな月がのしかかっているのが見える。
いい月だな。
それがどうした?
と思わず情緒もなく思いかけたとき、あまりが言った。
「私、ずっとこうして、海里さんと月を見ていたいです」
え……、と固まる。
それは、今限定の話か?
これから先の話か?
ずっとこの先も一緒に生きていきましょうという話かっ、あまりっ。
「寝るなーっ!」
ふと見下ろすと、既に、あまりは気持ちよさそうに目を閉じている。
思わず叫んだ自分に、あまりは可哀想に、えっ? えっ? と辺りを見回しながら起きてきた。
「楽しかったですね、旅行」
帰りの新幹線であまりはご機嫌だったが、桜田はちょっと機嫌が悪かった。
「せっかく一緒の部屋にしてやったのになあ」
と頭の上から、秋月が言ってくる。
振り返ると、秋月は、自分と海里の座る座席の背もたれの上で頬杖をつき、斜め前の寺坂と桜田を見ていた。
桜田は窓の外を黙って見ていて、寺坂は、桜田のご機嫌を取っている。
「支社長。
寺坂さん、ひっくり返って寝ちゃって、朝までそのまんまだったらしいですよ」
「そういや、あいつ、酒弱かったな……。
それで観光してる間も、桜田、機嫌が悪かったのか」
と海里が呟く。
そうだったのか。
二人でお酒呑んでるときは、いい雰囲気だったのにな、と思いながら、
「そうですよねー。
せっかく二人で泊まったんだから、もうちょっと、ゆっくり語り合ったりしたかったですよねー、きっと」
と桜田たちの方を見ながら呟いて、秋月と海里に同時に、
「莫迦なのか」
と言われてしまった。
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