あまりさんののっぴきならない事情 おまけ ~海里のろくでもない日常~

菱沼あゆ

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海里のろくでもない日常

いやあ、今日はいいお酒ですね~

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「今度は一緒に入れるな、風呂」
と言う海里に、あまりはピタリと動きを止めた。

「今更、嫌だとか言わないよな」

 えーと……。

 でも、外なんですよ、そのお風呂。

 周りは山ですが、猿とか見ているかもしれません、とあまりは思う。

 そのあと、海里がごちゃごちゃ言ってきたので、
「いえ、それは結婚してらっしゃるわけですし」
と言ってしまい、

 うっ。
 しまった、と思った。

 こ、これではなにやら、結婚を催促したみたいです、と上目遣いに海里を見上げる。

 海里に自分の思いが伝わっているのかいないのか、彼もまた無言で自分を見下ろしていた。

 そのとき、ピンポーン、と部屋のチャイムが鳴った。

「あまりさーん、支社長。
 そろそろ行きましょうー」
と言う桜田の声が聞こえる。

「いっ、行きましょうかっ」
とあまりは、キャリーバッグの蓋を慌てて閉めて、立ち上がる。


 やはり、想像通りのご主人です、と思いながら、あまりは夕食の席で初対面となった秋月の夫を見て思う。

 見るからに感じのいい、やさしそうなご主人だ。

 呑んだくれた秋月がなにを言っても、はいはい、と聞いている。

 そして、ご主人は途中で席を立ち、実家に電話をして、子どもたちの様子を訊いていた。

 それに気づいた秋月が、
「代われ」
と言い、

「もしもし。
 お母様だ。

 元気にしているか」
と子どもたちに話しかけていた。

 あまりの右隣の室長はそれを見て、ニコニコしている。

 こういう昔の方は、男の人が奥さんの尻に敷かれているのとか見て、大丈夫なのかな、とちょっとハラハラしてしまったのですが、大丈夫なようですね、と思っていると、室長は、秋月夫婦を見ながら、ぼそりぼそりと語り出す。

「秋月さんはねえ。
 ご主人のことが大好きでねえ。

 初めてご主人と出会って付き合い始めた頃は、それはもう浮かれていて、とても可愛かったですよ」

 そう昔語りをしてくれる。

 そうか。
 二人とも本社に居たから、よく知ってるんだな、と思った。

 あまりは左を振り向き、
「つぎましょう」
と海里に冷酒の小瓶を向ける。

「いや、い……。

 まあ、もらうか」

 いつもお前にそそがれると、こぼしそうだからいいと断られるのだが、やはり、旅先だからだろう。

 杯を受けてくれた。

 桜田と寺坂は隣の席で、二人ともほろ酔い加減で、楽しそうにやっている。

 その姿を見ていると、あまりもなんだか嬉しくなってきた。

「今日はお酒が進みます」
と機嫌よく言って、海里に、

「……いつもだろう」
と言われてしまった。


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