あまりさんののっぴきならない事情 おまけ ~海里のろくでもない日常~

菱沼あゆ

文字の大きさ
上 下
8 / 11
海里のろくでもない日常

いやあ、今日はいいお酒ですね~

しおりを挟む
 
「今度は一緒に入れるな、風呂」
と言う海里に、あまりはピタリと動きを止めた。

「今更、嫌だとか言わないよな」

 えーと……。

 でも、外なんですよ、そのお風呂。

 周りは山ですが、猿とか見ているかもしれません、とあまりは思う。

 そのあと、海里がごちゃごちゃ言ってきたので、
「いえ、それは結婚してらっしゃるわけですし」
と言ってしまい、

 うっ。
 しまった、と思った。

 こ、これではなにやら、結婚を催促したみたいです、と上目遣いに海里を見上げる。

 海里に自分の思いが伝わっているのかいないのか、彼もまた無言で自分を見下ろしていた。

 そのとき、ピンポーン、と部屋のチャイムが鳴った。

「あまりさーん、支社長。
 そろそろ行きましょうー」
と言う桜田の声が聞こえる。

「いっ、行きましょうかっ」
とあまりは、キャリーバッグの蓋を慌てて閉めて、立ち上がる。


 やはり、想像通りのご主人です、と思いながら、あまりは夕食の席で初対面となった秋月の夫を見て思う。

 見るからに感じのいい、やさしそうなご主人だ。

 呑んだくれた秋月がなにを言っても、はいはい、と聞いている。

 そして、ご主人は途中で席を立ち、実家に電話をして、子どもたちの様子を訊いていた。

 それに気づいた秋月が、
「代われ」
と言い、

「もしもし。
 お母様だ。

 元気にしているか」
と子どもたちに話しかけていた。

 あまりの右隣の室長はそれを見て、ニコニコしている。

 こういう昔の方は、男の人が奥さんの尻に敷かれているのとか見て、大丈夫なのかな、とちょっとハラハラしてしまったのですが、大丈夫なようですね、と思っていると、室長は、秋月夫婦を見ながら、ぼそりぼそりと語り出す。

「秋月さんはねえ。
 ご主人のことが大好きでねえ。

 初めてご主人と出会って付き合い始めた頃は、それはもう浮かれていて、とても可愛かったですよ」

 そう昔語りをしてくれる。

 そうか。
 二人とも本社に居たから、よく知ってるんだな、と思った。

 あまりは左を振り向き、
「つぎましょう」
と海里に冷酒の小瓶を向ける。

「いや、い……。

 まあ、もらうか」

 いつもお前にそそがれると、こぼしそうだからいいと断られるのだが、やはり、旅先だからだろう。

 杯を受けてくれた。

 桜田と寺坂は隣の席で、二人ともほろ酔い加減で、楽しそうにやっている。

 その姿を見ていると、あまりもなんだか嬉しくなってきた。

「今日はお酒が進みます」
と機嫌よく言って、海里に、

「……いつもだろう」
と言われてしまった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

世迷ビト

脱兎だう
キャラ文芸
赤い瞳は呪いの証。 そう決めつけたせいで魔女に「昼は平常、夜になると狂人と化す」呪いをかけられた村に住む少年・マーク。 彼がいつも気に掛ける友人・イリシェは二年前に村にやって来たよそ者だった。 魔女と呼ばれるイリシェとマークの話。 ※合同誌で掲載していた短編になります。完結済み。 ※過去話追加予定。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

あまやかしても、いいですか?

藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。 「俺ね、ダメなんだ」 「あーもう、キスしたい」 「それこそだめです」  甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の 契約結婚生活とはこれいかに。

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。 ところが、見合い当日。 息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。 「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」 万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。 部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。

処理中です...