あまりさんののっぴきならない事情 おまけ ~海里のろくでもない日常~

菱沼あゆ

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海里のろくでもない日常

外国育ちだからですか?

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「そうだ。
 昼間言いそびれたんだが」

 あまりの家でご飯を食べているとき、海里が言ってきた。

「仕事が入ったんで、俺は旅行、遅れて参加するから」

 えっ? と顔を上げると、
「いや、みんなあの日は五時に仕事を終えて出るんだろ?
 俺はすぐには出られないから、遅れていく」

 もう秋月には言ってある、と言う。

 金曜の方が土曜より安いので、料理が高く設定出来ると秋月が主張し、金曜の夕方出発することになっていた。

 いつかみたいに、プレミアムフライデーではなかったので、五時からだが。

 まあ、そもそも、全員で三時に出るとか無理だよな~と思ってると、海里が、

「寺坂はちゃんと先に出すから心配するな」
と言ってくる。

「そうなんですか」
と呟いたあまりは、

「じゃあ、私も遅れて行きます」
と言った。

「なんでだ。
 みんなと行けよ」

 大勢の方が楽しいだろ、と言ってくれるが、
「そうですよ。
 だから、一人で行く海里さんが楽しくないかなあと思って」
と言うと、

「嬉しいが、お前も初めての社員旅行だろ。
 みんなと行け」
と言ってくれる。

「いえいえ、海里さんと行きますよ」
と言って押し問答になってしまった。

「もしかしたら、海里さん、女性の方と約束されてたりとかだったらいけないので、私も海里さんと行きます」

 なんとか一緒に行けるよう主張しようと、そんなこと言ってしまう。

「待て。
 一緒に新幹線に乗って、目的地について、さよならとか、なんの意味があるんだ……」

「でも、海里さんと新幹線に乗るだけでも楽しいかもしれないじゃないですか。

 私は、楽しかったです」
としゅんとする。

 海里が寂しいだろうからというのもあるが、自分も海里と二人で新幹線に乗ってみたかったのだ。

 それが伝わったらしく、海里は笑った。

「わかったわかった。
 新幹線に謎の恋人疑惑とか遠慮したいからな」

 草野辺りが社内に尾ひれ付けて広めそうだ、と言う。

「あまり」
と呼びかけられて、はいっ、と返事をすると、じっと顔を見つめてきた海里が、

「表へ出ろ」
と言ってきた。

 ええええええーっ?

 私、なにかまずいこと言いましたっ?

 いや、言ったか、と思っていると、

「いや、キスしたくなったんだが、中でしたら止まらなくなりそうだから」

 時計を見つつ、実は今日も、あと五分で出ないと行けないんだ、と言ってくる。

 えええええっ? と思っている間に、手を引かれ、廊下に連れ出され、キスされた。

 えーと……

 廊下です。

 人が来ます。

 いや、今、、居ませんが、そのうち、ポーンッとか鳴って、エレベーターが着くに違いないです、と思っていた。

 だが、海里は動じることなく口づけたあとで、

「じゃあ……行ってくる」
と真っ直ぐ瞳を見つめ、言ってきた。

 これですよ、これですよ、これっ!

 なんでこの人は、こう真正面から見つめてくるのですか。

 外国育ちだからですか?

 照れとかないんですか?

 見つめられて、そらせないけど、私は、本当は恥ずかしくて、今すぐうつむいて逃げ出したいですっ、と思い、耳まで真っ赤になって、固まっていると、海里がいきなり鋭い目と動きで振り返った。

「服部が来る気配がする」

 ……来る気配ってなんですか。

「戻れ、あまり」
と急いで、あまりの部屋のドアを開け、中に押し込むと、

「じゃあな。
 服部が来ても、ドアは開けるな。
 間に合ってますと言え」
と言う。

 ……なにが間に合ってるんだ、と思っている間に、もう一度、サッとキスする。

 とぼけた自分が信用ならなかったのか、外から鍵をかけ、行ってしまった。

 なんですか、その隙のなさ。

 服部半蔵より、貴方の方が忍者みたいですよ、と思う。

 いや、あの服部半蔵も忍者ではないのだが……。

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