憑代の柩

菱沼あゆ

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探偵II

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 朝だ。

 今日は私の結婚式だ。

 ドレスはもう教会に届いている。

 身支度を済ませ、ふと洗面所から廊下の窓を見た。

 そして、そこに踞っている男に溜息をもらす。

「あの、私、もう此処には帰ってはこないと思いますが。
 成仏、されないですか?」

 すると、男は初めて言葉を発した。

『……うち、神道だから』

「そうですか。
 すみません」
と苦笑いする。

 余計なお世話だったようだ。

 だが、次の瞬間、男は消えていた。

 いきなり成仏したのだろうかと思っていると、男はあの押し入れの前に居た。

 そこを指差す。

「え、まだ何か居ます?
 霊とか」

 男がずっと指しているので、その前に膝をつき、開けてみた。

 綺麗に何も無い。

 八代が後始末したのなら、まあ、そうだろうと思っていた。

 だが、男はまだ指差している。

 その指を追うようにして、横の三段ボックスを見た。

 厭だが、中に入る。

 男の指差す場所。

 三段ボックスの引き出しの間に何か挟まっているようだった。

「あ……」

 恐らく、本田に見せたのだろう。

 奏の幼い頃の写真と、そして、もう一枚の写真には、少し年上の少女とともに映る彼女の姿があった。

「ありがとうございます」
と振り返ると、男は消えていた。

 廊下に戻ってみると、男はちゃんとそこで膝を抱えている。

 私は少し笑い、
「ありがとうございます」
と繰り返したあとで、いつも奏が居た洗面台にその二枚の写真を立てかけ、手を合わせた。



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