54 / 68
探偵II
ウエディングドレス
しおりを挟む「探偵ねえ」
少し行ったところで、仁王立ちになっていた麻紀が胡散臭げに呟く。
「麻紀さん、明日、式には来られますか?」
「当たり前じゃないの」
と言う彼女に、
「防弾チョッキは着用された方がいいと思いますよ。
あと、顔面にも何かかけられて」
せっかくの綺麗なな顔、火傷でもしたら、もったいないですもんね、と笑うと、
「厭よ」
と言う。
「ラベンダー色の素敵なドレスを買ったのよ。
そんなアンパイアみたいな格好、冗談じゃないわよっ」
「お洒落は我慢と言いますが、命を賭けるのはどうでしょうね」
「あんた……死ぬ気なの?」
「なんでみんな同じこと言うんですか。
別にそんな予定はないですが」
「あんたこそ、防弾チョッキでもなんでも着てなさいよっ」
「いやあ、コルセットとかも結構頑丈ですよ。
爆風でも、結構いけます。
距離によっては」
「あんたね」
「ほんとですよ。
意外と大丈夫なんです」
と笑ってみせる。
遠くに本田が立っていて、こちらに向かい、頭を丁寧に下げてきた。
「どうですか? 綺麗です?」
白いドレスのまま、くるりと廻ってみせると、
「自分で言う奴があるか」
と衛は吐き捨てる。
衛と待ち合わせて、ドレスを選びに来ていた。
可愛いものは揃っているが、特に立派でもないドレス専門のショップだ。
衛は反対したが、私の好みだ。
ゴージャスなドレスは私の顔には似合わない。
店員に出された緑の丸椅子に腰掛けた衛は、少し離れた位置からこちらを見ていた。
さして、興味もなさそうなことを言ってはいるのだが、なかなか注文がうるさい。
「そんなにない胸を見せてどうする」
「……死ぬ程余計なお世話なんですけど」
どうも露出が少ない方がいいらしく、気を抜いていると、ムシムシとくそ暑いのに、長袖を着せようとする。
そろそろ梅雨かな、と衛の後ろ、ガラス張りの外を見た。
薄曇りの外はどんよりとした空気で、なんとなく、今のみんなの気持ちのようだった。
衛の指示でまた着替えることになり、ドレスを手に、カーテンの向こうに入る。
目の前に、白いドレスを着た佐野あづさが居た。
そっと鏡に触れてみる。
そのまま、しばらくじっとしていた。
「どうですか?」
と外に出ると、衛は目を細め、こちらを見ていた。
「気に入りました?」
と訊くと、
「気に入りはしないが、今まで着た中では、マシなんじゃないか。
花嫁に見えないこともない」
と言う。
本当に一言多い奴だ。
ガラス窓の向こう、携帯で話しながら歩いて行く忙しげなサラリーマンと目が合った。
一瞬、私の視線を追うように衛が振り向いたが、サラリーマンは極自然に道の方を見た。
そのまま、歩道を渡って行く。
「衛さん、これにします」
そう言うと、彼はこちらを向いた。
立ち上がった彼は側まで来、私を見つめる。
私は仮に持たされた造花のブーケを握り締め、彼を見上げた。
すぐに目を伏せ、笑った私を不満そうに衛が見る。
「なん……。
なんだ?」
「いや、別に。
行きましょうか?」
「何処に?」
「付いてきてくださったお礼に。
お茶でも奢りますよ」
「それは、僕が渡した金だよな」
「出所うんぬん言うなんて、金持ちらしくないですね」
と笑ってみせる。
支払いを済ませ、ドレスは直接、教会に送ってもらうようにした。
「持って行った方がいいんじゃないのか?」
「なんでですか。
邪魔じゃないですか。
ああ、今度は、ドレスに爆弾が仕掛けられてるかもとか思いました?」
と言うと、厭な顔をする。
「礼だと言うのなら、ちょっと付き合え」
先に立って、ガラス戸を開けながら、衛は言った。
「行きたい店があるんだ」
その背を見ながら、少し遅れて歩き出す。
あの黒髪で、背の高いサラリーマンはもう居なかった。
2
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
このブラジャーは誰のもの?
本田 壱好
ミステリー
ある日、体育の授業で頭に怪我をし早退した本前 建音に不幸な事が起こる。
保健室にいて帰った通学鞄を、隣に住む幼馴染の日脚 色が持ってくる。その中から、見知らぬブラジャーとパンティが入っていて‥。
誰が、一体、なんの為に。
この物語は、モテナイ・冴えない・ごく平凡な男が、突然手に入った女性用下着の持ち主を探す、ミステリー作品である。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

お狐様の言うとおり
マヨちくわ
ミステリー
犯人を取り逃したお巡りさん、大河内翔斗がたどり着いたのは、小さな稲荷神社。そこに住み着く神の遣い"お狐様"は、訳あって神社の外には出られない引きこもり狐だけれど、推理力は抜群!本格的な事件から日常の不思議な出来事まで、お巡りさんがせっせと謎を持ち込んではお狐様が解く、ライトミステリー小説です。
オムニバス形式です。1話あたり10000字前後のものを分割してアップ予定。不定期投稿になります。
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

「蒼緋蔵家の番犬 1~エージェントナンバーフォー~」
百門一新
ミステリー
雪弥は、自身も知らない「蒼緋蔵家」の特殊性により、驚異的な戦闘能力を持っていた。正妻の子ではない彼は家族とは距離を置き、国家特殊機動部隊総本部のエージェント【ナンバー4】として活動している。
彼はある日「高校三年生として」学園への潜入調査を命令される。24歳の自分が未成年に……頭を抱える彼に追い打ちをかけるように、美貌の仏頂面な兄が「副当主」にすると案を出したと新たな実家問題も浮上し――!?
日本人なのに、青い目。灰色かかった髪――彼の「爪」はあらゆるもの、そして怪異さえも切り裂いた。
『蒼緋蔵家の番犬』
彼の知らないところで『エージェントナンバー4』ではなく、その実家の奇妙なキーワードが、彼自身の秘密と共に、雪弥と、雪弥の大切な家族も巻き込んでいく――。
※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
若月骨董店若旦那の事件簿~満開の櫻の下に立つ~
七瀬京
ミステリー
梅も終わりに近付いたある日、若月骨董店に一人の客が訪れた。
彼女は香住真理。
東京で一人暮らしをして居た娘が遺したアンティークを引き取って欲しいという。
その中の美しい小箱には、謎の物体があり、若月骨董店の若旦那、春宵は調査をすることに。
その夜、春宵の母校、聖ウルスラ女学館の同級生が春宵を訪ねてくる。
「君の悪いノートを手に入れたんだけど、なんだかわかる……?」
同時期に持ち込まれた二件の品物。
その背後におぞましい物語があることなど、この時、誰も知るものはいなかった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる