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探偵II
ウエディングドレス
しおりを挟む「探偵ねえ」
少し行ったところで、仁王立ちになっていた麻紀が胡散臭げに呟く。
「麻紀さん、明日、式には来られますか?」
「当たり前じゃないの」
と言う彼女に、
「防弾チョッキは着用された方がいいと思いますよ。
あと、顔面にも何かかけられて」
せっかくの綺麗なな顔、火傷でもしたら、もったいないですもんね、と笑うと、
「厭よ」
と言う。
「ラベンダー色の素敵なドレスを買ったのよ。
そんなアンパイアみたいな格好、冗談じゃないわよっ」
「お洒落は我慢と言いますが、命を賭けるのはどうでしょうね」
「あんた……死ぬ気なの?」
「なんでみんな同じこと言うんですか。
別にそんな予定はないですが」
「あんたこそ、防弾チョッキでもなんでも着てなさいよっ」
「いやあ、コルセットとかも結構頑丈ですよ。
爆風でも、結構いけます。
距離によっては」
「あんたね」
「ほんとですよ。
意外と大丈夫なんです」
と笑ってみせる。
遠くに本田が立っていて、こちらに向かい、頭を丁寧に下げてきた。
「どうですか? 綺麗です?」
白いドレスのまま、くるりと廻ってみせると、
「自分で言う奴があるか」
と衛は吐き捨てる。
衛と待ち合わせて、ドレスを選びに来ていた。
可愛いものは揃っているが、特に立派でもないドレス専門のショップだ。
衛は反対したが、私の好みだ。
ゴージャスなドレスは私の顔には似合わない。
店員に出された緑の丸椅子に腰掛けた衛は、少し離れた位置からこちらを見ていた。
さして、興味もなさそうなことを言ってはいるのだが、なかなか注文がうるさい。
「そんなにない胸を見せてどうする」
「……死ぬ程余計なお世話なんですけど」
どうも露出が少ない方がいいらしく、気を抜いていると、ムシムシとくそ暑いのに、長袖を着せようとする。
そろそろ梅雨かな、と衛の後ろ、ガラス張りの外を見た。
薄曇りの外はどんよりとした空気で、なんとなく、今のみんなの気持ちのようだった。
衛の指示でまた着替えることになり、ドレスを手に、カーテンの向こうに入る。
目の前に、白いドレスを着た佐野あづさが居た。
そっと鏡に触れてみる。
そのまま、しばらくじっとしていた。
「どうですか?」
と外に出ると、衛は目を細め、こちらを見ていた。
「気に入りました?」
と訊くと、
「気に入りはしないが、今まで着た中では、マシなんじゃないか。
花嫁に見えないこともない」
と言う。
本当に一言多い奴だ。
ガラス窓の向こう、携帯で話しながら歩いて行く忙しげなサラリーマンと目が合った。
一瞬、私の視線を追うように衛が振り向いたが、サラリーマンは極自然に道の方を見た。
そのまま、歩道を渡って行く。
「衛さん、これにします」
そう言うと、彼はこちらを向いた。
立ち上がった彼は側まで来、私を見つめる。
私は仮に持たされた造花のブーケを握り締め、彼を見上げた。
すぐに目を伏せ、笑った私を不満そうに衛が見る。
「なん……。
なんだ?」
「いや、別に。
行きましょうか?」
「何処に?」
「付いてきてくださったお礼に。
お茶でも奢りますよ」
「それは、僕が渡した金だよな」
「出所うんぬん言うなんて、金持ちらしくないですね」
と笑ってみせる。
支払いを済ませ、ドレスは直接、教会に送ってもらうようにした。
「持って行った方がいいんじゃないのか?」
「なんでですか。
邪魔じゃないですか。
ああ、今度は、ドレスに爆弾が仕掛けられてるかもとか思いました?」
と言うと、厭な顔をする。
「礼だと言うのなら、ちょっと付き合え」
先に立って、ガラス戸を開けながら、衛は言った。
「行きたい店があるんだ」
その背を見ながら、少し遅れて歩き出す。
あの黒髪で、背の高いサラリーマンはもう居なかった。
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