憑代の柩

菱沼あゆ

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探偵II

大学生活

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 大学に行った私は、欠伸をしながら、廊下を歩いていた。

 が、突然、襟首を掴まれる。

「くえっ」と絞められた瞬間のニワトリのような声を上げながら、角へと引きずり込まれる。

 ついに、犯人がっ、と思う間もなく、目の前に女の集団が現れた。

 或る意味、真犯人より怖い。

「あの~、なんですか?」
と腰低く訊くと、いつぞや、水をかけてきた女が言った。

「あんた、明日、結婚式を予定通りやるってほんと?」

「――の、予定ですが」
と言うと、彼女らは、きゃーっと声を上げる。

 なんなんだ、と思っていると、早口にまくし立ててきた。

「式、見たいんだけど。

 教会でやるんでしょ?
 外から見ててもいいかしら?」

「そ、外から?
 なんでまた」

 要たちは招待することにしたから、一緒に入れないこともないのだが。

「いやね。
 式に出てる御剣さんを見たいのよ」
と彼女らは、うっとりと言う。

「あのー、普通は花嫁を見たいとか言いませんかね?」
と顎に手をやり言ってみたが、

「あんた見てどうすんのよ。
 まあ、ドレスは参考にさせてもらうわ。

 自分の式のときのために」
と切り捨てられた。

「まあ、いいと思いますけど。
 でも、ちょっと離れてた方がいいですよ」

「なんで?」
と問われ、

「またなんか爆発したら困るじゃないですか」
と笑いながら答えたが、彼女らは一斉に眉をハの字にした。

「何事も起こらなくて、二次会でも出来そうだったら、呼びますよ。

 衛さんには、そのままの格好で居るように言っときますから。

 そのとき、私が居るかどうかはわかりませんが」
と言うと、水をかけた女が複雑そうな顔をしていた。

 なんかこう……平和だなあ、とその場を去りながら思う。

 この中のメンバーが、逆恨みで爆弾を仕掛けるとかなさそうだ。

 いやそもそも、なんで爆弾なんだ?

 もしも、奏を狙ったのなら、彼女一人をひっそり殺せばいい。

 私だったら、あんなやり方はしないが―― と思ったとき、

「ちょっと」
と声がした。

 水かけ女が追いかけてきた。

 確か、水沢とか言ったその女は、やけに真剣な顔で訊いてくる。

「あんた……死ぬ気なんじゃないでしょうね」

「一応、その予定はありませんが。
 まあ、状況により、わかりませんけど」

 茶化すなという顔で、何か言おうとした彼女に微笑みかける。

「出来るだけ死なないようにしますよ。

 どんな人間でも、周りで人に死なれて寝覚めの悪くない人間は居ませんからね。

 貴女もでしょう?」

 彼女はわざと関係ない、という風な顔を装ってみせる。

 だが、それは照れ隠しなのだとわかっていた。

「水沢さん。
 もし、戻ってこれたら、カラオケにでも行きましょう?

 そのとき、私は、佐野あづさではないし、この顔でもないかもしれませんが」

「あんた――

 初めて私の名前、呼んだわね」

 そう言われ、
「貴女も私を名前で呼んでませんよ。

 あんた、とか。
 ちょっと、とかしか聞いてない気がしますが」
と笑う。

「知らないわよ、あんたの名前なんて」

 私は腰に手をやり、少し考えたあとで言った。

「じゃあ、内緒ですよ。
 私の名前を教えます。

 実は、先生しか知りません」

「先生って誰?」
と言う彼女の耳許で囁くと、彼女は離れたあとで、

「結局、あんた、何者?」
と訊いてきた。

「探偵です」
と宣誓するように手を上げ、彼女の許を離れる。
 



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