憑代の柩

菱沼あゆ

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探偵II

探偵

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「仕事休めないですよね~、こんなときでも」

「明日の式に時間を空けるのが精一杯だ」

 そう言う衛に上着を渡しながら言った。

「そのあとも空けといた方がいいですよ。
 絶対、何事かあるから」

 何事かってな、という顔で衛は見る。

「ひとつ気になってることがあるんですよ」

 うん? とスーツの袖に手を通しながら、衛は訊き返してきた。

「どうやって、奏があの大学に入ったかってことですよ。

 猛勉強したにしても、ちょっと彼女の学力では無理があるような。

 そこのとこがちょっと気になってるんです。

 奏は本当のところ、あの顔で、貴方に脅しをかける程度のことしかするつもりはなかったのでは?

 それで去るつもりだったんでしょう。

 貴方を好きにさえならなければ」

 自分が別人になり、新しい未来を歩くその前に、姉の復讐を――。

 そのくらいのつもりだったのではないか。

「復讐のために、わざわざ別人になったというより。

 新しい人生のために、別人になったついでだったんじゃないでしょうか。

 顔もまた変えるつもりだったのかも。

 でも、復讐の相手に、要先生じゃなくて、貴方を選んだのは、もしかしたら、最初から好みだっただけなのかもしれませんね」

 姉妹で似てるんですかね、好みが、と言うと、呆れた顔をしていた。

 そのまま止まっている衛を見上げ、

「いいから、早く仕事に行ったらどうですか」
と言うと、

「だから、お前が引き止めたんだろうがっ」

 とうとうと推理を聞かせてたのは誰だっ、と怒鳴られた。 

 玄関に向かう衛を見送る。

 手を振りながら、
「新婚さんみたいですよね、こうしてると」
と言うと、衛は怒ったように出て行ってしまった。

 閉まった扉を見ながら、
「こういうところは、本当に可愛くないな」
と呟いた。

 


 何が、新婚さんみたいですね、だ。

 あいつの神経は何処か焼き切れている、と思いながら、前を見る。

 硬い靴音。

 階段を若い男が上がって来るのが見えた。

 茶髪の短い髪で、片耳にイヤリングをやっている、長身の男。

「八代」

 こちらをあまり見ない彼に、呼びかける。

 彼は何も言わずに、ドアを開け、一瞬だけ、眼を合わせ、頷いた。

 そのまま、閉まる。

「……八代の助手ね。

 あの間抜けめ」

 そう呟き、そのまま階段を下りていった。




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