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霊安室の遺体
ニセモノ
しおりを挟む無能な探偵だと思っていたが――
運転しながら、要は横の茶髪の男を窺い見た。
警戒心がないせいか、ベラベラ話してしまうな。
「意外と使えるのかもな」
そうぼそりともらすと、え? と間抜け顔で見返してくる。
その表情が、さっきのニセ『佐野あづさ』、いや、ニセあづさのニセモノの表情と重なり、笑ってしまった。
「あのー、あの人、一人にして大丈夫なんですかね」
と流行はアパートを振り返っている。
「大丈夫だ。
暇もないのに、衛がほいほい現れるだろうから」
「……奏さんでは駄目だったのに、彼女はいいんですね。
なんだか切ないですね。
その挙げ句に、彼女は爆死したというのに」
「奏が馨の妹だったから、最初から衛にとっては、恋愛対象でなかったというのもあるけどな。
申し訳ないという気持ちの方が強かっただろうから。
それに、あの爆発、本当に、奏を殺そうとしたのかはわからないしな」
「どういう意味ですか?
衛さんを狙ってたとか?」
「いや。
顔は違えど、彼女は佐野あづさを名乗っていた。
遺産目当てにあづさを殺そうとしたか。
あづさ絡みの怨恨か。
或いは、あづさを彼女が殺して入れ替わったと思った人間が――」
「復讐ですか?
そういえば、あづさ側の人間が、既に一人殺されてますよね。
奏さんに寄って。
その復讐の線もありましたね」
今、横をすり抜けた白い車が、衛のそれのような気がした。
そう思って見るからそう見えたのだろうと思いながらも気になった。
今、車の横に居るのは、顔は可愛らしいが冴えない男だが、かつてはその場所に馨が座っていた。
あの日、泣いた馨に車を山道の脇に止めた。
少し雨が降っていて。
馨の肩に手を回し、抱き寄せたが、シートベルトが邪魔だった。
彼女はこちらの胸に頭を寄せてきた。
あのときが一番心が近かった気がするな、と思った。
恋人同士になってからの方がむしろ遠かった。
彼女が言っていたように、自分のことを友人として、信頼し、好きだったのだろう。
あの日、着物を着てしゃがんでいた。
行く当てもなく、猫をかまっていた少女。
「どうかしましたか?」
「いや――」
あの車が衛のものでも、自分はもう戻れないと思っていた。
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