憑代の柩

菱沼あゆ

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霊安室の遺体

ファミレス

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 押し入れから出て来た流行を見た要が、

「なんだこれは、死体か?」
と訊いてきた。

「生きてますよ」

 もう、と私は要を睨み、もう一度、流行を睨んだ。

 流行は、自分が連れ込んだくせに、とでも言いたげな顔でこちらを見ている。

 要は威圧するように立ったまま、流行を見下ろし、

「今度は何処の男だ」
と訊いてきた。

「人聞きの悪い。

 この人が、衛さんが雇っていた探偵の相棒さんです。

 どうも命を狙われている気がするというので、匿ってみました」
と言うと、

「探偵をか」
と言われる。

 いや、もう、ほんとにごもっとも――

「探偵なら、命を狙われるのも仕事のうちだろう」
と命を助ける仕事の人が言う。

「でも、衛さんが雇ってた探偵さんも消えちゃいましたしね」

「その探偵も、そこの押し入れに入ってたんだろ」
と指差され、流行が、ひっ、と身をすくめて振り返っていた。

 もちろん、その場合は、死体で、という意味だ。

「いや、実は流行さんが狙われる理由というのが、うち絡みかもしれないので、助けてみたんですが」

 そう言うと、流行は、関係なかったら助けなかったのか、という恨めしげな眼で見る。

「理由?」
と訊く要に、流行が答えていた。

「実は――

 此処からちょっと離れたファミレスの前で、佐野あづさを見たんです、昨日。

 佐野あづささんですか、とうっかり話しかけると、睨まれて」

「待て。
 どっちの佐野あづさの顔だ」

「……この顔です」

「何処のファミレスだ?」
と要が訊く。

 流行の説明に、珍しく要の表情が変わったように見えた。

「それで、私、行ってみました、昼間」
と言うと、要は怒鳴りつけようとするようにこちらを見たが、それを制して、続きを言う。

「すると、言われたんですよ。
 突然、バイトやめちゃってどうしたのって」

 店長と少し話をし、

「私もそういうバイトをしたことがあるような記憶があったので、誰かと間違われていると思いながらも、そのまま、少し手伝ってみました。

 ちょうど二人休んで人手が足らなかったようなので」

 そして、バイトの人たちと仲良くなって、話を聞いてきました、と告げる。

「……変ですよね」

 話し終わったあと、流行は言った。

「秋川奏さんは、そんなところでバイトされてはなかったはずですが。

 それに第一、僕が見たのは、彼女が死んだあとです」

 同じ顔の人間、と要が呟く。

 あのう、と流行が恐る恐る口を開いた。

「要先生は、本当に、咲田馨さんを殺されたんですか?」

「……誰が馨を殺したって言った」

 流行が無言で視線をこちらに投げて寄越す。

 確かに先程、告白を聞いたが、あれから要とは離れていないので、流行がそう言うのは確実なフライングだ。

 はは、と苦笑いして、要を見上げる。

「いや、そうじゃないかな、と言っただけですよ」

「生きていた馨がファミレスでバイトしてたっていうのか」

「しかし、店長の話ではすぐに止めているようです。

 評判は良かったようですけどね」
と言うこちらを要が見る。

「僕が見たのは、生きていた馨さんだったんですかね」
と溜息をつく流行の言葉に、

「いや、馨のはずはない」
と要は言い、立ち上がった。

 そして、流行を見下ろし言った。

「わかったぞ。
 お前が無能な探偵だな」

「いや、あの……」

 そんなど真ん中突かなくても、と思っていると、要は流行の首根っこ掴む。

「こいつは俺が預かろう」

「いやあの、流行さん、命狙われてるみたいなんだけど。
 車道に突き飛ばされたらしくて」

「道を歩かなければいい」

 おいおい。

「あの、私的にも誰か居てくれた方が」

「衛がガードを付けてるんだろうが。

 それ以前に、あいつが暇を見ては、ひょいひょいやってきてるんだろう」
と言い捨て、流行を連れて出ていってしまった。

 流行は要が苦手なようだったが、こうなってしまっては、もう口を挟めない。

「あーあ」
と呟きながらも見送った。



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