44 / 68
霊安室の遺体
足音
しおりを挟む十二月
ーーーーーー
「国王裁判所へ。私が判決発見人になります」
犯罪が発覚した時、選択できる方法として、フェーデ・和解・裁判の3種類がある。
フェーデは、実力行使で復讐を果たす事をいい、今ではあまり行われていない。
今回は裁判を行い、犯罪者を断罪するのはごく当然の流れだ。しかし、
「奴が、雪冤宣誓を行ったら、どうなるかご存知なのですか?」
雪冤宣誓は、被告が罪を否認する事を言う。ストックトン侯爵は、罪を認めたくないならば、自身の人格を肯定してくれる宣誓補助者を探さなくてはならない。
「勿論知っているわ。だけど、彼が12人もの宣誓補助者を見つけられるわけがない。宣誓補助者は、彼が嘘をつく様な人じゃないって、宣言しなくちゃいけないのよ。
彼が正しい人物だって、最後まで言い切れる人が12人もいる訳ないわ」
「決闘裁判に持ち込まれたら、アイラ様では勝てません」
「その時は、決闘裁判の前に神明裁判を希望するわ」
「それでもし、奴が神を騙し抜いたら?」
「そんな事絶対にありえない。神も集まった方々にも真実は必ず伝わるわ」
「もし決闘裁判になったら、私を代闘士に指名すると約束して頂けますか?」
「・・いいわ、その時はウィルソンに代闘士をお願いする」
「嘘吐き、アイラ様の嘘は直ぐにわかる」
「判決発見人は、貴族や奴隷以外の自由人がなると、通例で定められております。平民の私なら、資格があります」
「アイラもウィルソンも、落ち着きなさい。国王裁判所に訴え出るのは、私も賛成だ。判決発見人にはウィルソン、補助をアイラと言うのはどうかな?」
「それがいいと私も思います。恐らく裁判官は、陛下が為されるでしょう。ストックトン侯爵はそれなりに人脈もあるので、宣誓補助者を見つけてくる可能性はありますね。
神明裁判、神判の結果は神のみぞ知ると言うところですが、恐らく彼は拒否するでしょう。いずれにしろ、決闘裁判だけは避けられる様に手を打ちましょう」
「雪冤宣誓するのは、ストックトン侯爵だけだろうが、自分の手を汚すのは嫌いな彼の事だ。神判で熱湯や火に手を突っ込むとか、水に投げ込まれるとか。絶対にやらんだろう」
「でも逃げればそこで、罪を認めた事になります」
「神判直前まで持ち込んで、逃げた所を捕まえるのが一番安全そうだ」
裁判は、思った以上にあっさりと完結した。
裁判は公開で行われた。裁判集会場には、社交界で評判のエジャートン伯爵が、判決発見人の一人だと知った多くの貴族が集まった。
被告は5人。ストックトン侯爵とデイビッド、胴元のジェイソンとビクターそしてウォルター。
アイラ達から全ての証拠が提出され、罪状報告がなされた。証人としてシンディとバイオレット、メリッサが召喚されている。
予想通り、ストックトン侯爵だけは雪冤宣誓を行った。彼が集めていた宣誓補助者の一部は、宣誓の後、彼が誠実な人物であると証言したが、殆どの人が拒否してしまった。
ストックトン侯爵は、決闘裁判を望んだが陛下から、
「ならば、神明裁判を行った後に決闘裁判を行うのはどうかな? 勿論代闘士は認めん」
の一言で、ストックトン侯爵は崩れ落ち、全ての罪を認めた。
ストックトン侯爵は、爵位剥奪の上で終身の鉱山奴隷に。デイビッドは10年間の鉱山奴隷となり、その後解放される。
胴元とビクターは、一週間の鞭打ち100回の後公開処刑。ウォルターは、北方開拓団で5年間の無償労働となった。
「アイラ様、漸く終わりましたね」
ソフィアが声をかけるが、アイラとウィルソンは浮かない顔をしている。
「そうね、トマス様やアルフレッド様にご挨拶をして、領地に帰りましょう。陛下にもお礼のお手紙をお出ししなくては。
メリッサ達の保護をしていてくれてありがとう」
「4人纏めて、ロンメルの保養地で保護していたので、世話をしていたトスティが一番苦労したみたいです」
ウィルソンが、トスティからの報告を思い出して、苦笑いしている。
「メリッサの事は分からないけど、後の3人が勢揃いしてるなんて、トスティの苦労が想像出来るわね」
「トスティはリリアの実家で長い間楽しんでいたので、釣り合いは取れてると思います」
領地に帰る事をあれ程望んでいたのに、領地には最後の一人が残っている。
ビクターが言っていたのは・・。
ーーーーーー
「国王裁判所へ。私が判決発見人になります」
犯罪が発覚した時、選択できる方法として、フェーデ・和解・裁判の3種類がある。
フェーデは、実力行使で復讐を果たす事をいい、今ではあまり行われていない。
今回は裁判を行い、犯罪者を断罪するのはごく当然の流れだ。しかし、
「奴が、雪冤宣誓を行ったら、どうなるかご存知なのですか?」
雪冤宣誓は、被告が罪を否認する事を言う。ストックトン侯爵は、罪を認めたくないならば、自身の人格を肯定してくれる宣誓補助者を探さなくてはならない。
「勿論知っているわ。だけど、彼が12人もの宣誓補助者を見つけられるわけがない。宣誓補助者は、彼が嘘をつく様な人じゃないって、宣言しなくちゃいけないのよ。
彼が正しい人物だって、最後まで言い切れる人が12人もいる訳ないわ」
「決闘裁判に持ち込まれたら、アイラ様では勝てません」
「その時は、決闘裁判の前に神明裁判を希望するわ」
「それでもし、奴が神を騙し抜いたら?」
「そんな事絶対にありえない。神も集まった方々にも真実は必ず伝わるわ」
「もし決闘裁判になったら、私を代闘士に指名すると約束して頂けますか?」
「・・いいわ、その時はウィルソンに代闘士をお願いする」
「嘘吐き、アイラ様の嘘は直ぐにわかる」
「判決発見人は、貴族や奴隷以外の自由人がなると、通例で定められております。平民の私なら、資格があります」
「アイラもウィルソンも、落ち着きなさい。国王裁判所に訴え出るのは、私も賛成だ。判決発見人にはウィルソン、補助をアイラと言うのはどうかな?」
「それがいいと私も思います。恐らく裁判官は、陛下が為されるでしょう。ストックトン侯爵はそれなりに人脈もあるので、宣誓補助者を見つけてくる可能性はありますね。
神明裁判、神判の結果は神のみぞ知ると言うところですが、恐らく彼は拒否するでしょう。いずれにしろ、決闘裁判だけは避けられる様に手を打ちましょう」
「雪冤宣誓するのは、ストックトン侯爵だけだろうが、自分の手を汚すのは嫌いな彼の事だ。神判で熱湯や火に手を突っ込むとか、水に投げ込まれるとか。絶対にやらんだろう」
「でも逃げればそこで、罪を認めた事になります」
「神判直前まで持ち込んで、逃げた所を捕まえるのが一番安全そうだ」
裁判は、思った以上にあっさりと完結した。
裁判は公開で行われた。裁判集会場には、社交界で評判のエジャートン伯爵が、判決発見人の一人だと知った多くの貴族が集まった。
被告は5人。ストックトン侯爵とデイビッド、胴元のジェイソンとビクターそしてウォルター。
アイラ達から全ての証拠が提出され、罪状報告がなされた。証人としてシンディとバイオレット、メリッサが召喚されている。
予想通り、ストックトン侯爵だけは雪冤宣誓を行った。彼が集めていた宣誓補助者の一部は、宣誓の後、彼が誠実な人物であると証言したが、殆どの人が拒否してしまった。
ストックトン侯爵は、決闘裁判を望んだが陛下から、
「ならば、神明裁判を行った後に決闘裁判を行うのはどうかな? 勿論代闘士は認めん」
の一言で、ストックトン侯爵は崩れ落ち、全ての罪を認めた。
ストックトン侯爵は、爵位剥奪の上で終身の鉱山奴隷に。デイビッドは10年間の鉱山奴隷となり、その後解放される。
胴元とビクターは、一週間の鞭打ち100回の後公開処刑。ウォルターは、北方開拓団で5年間の無償労働となった。
「アイラ様、漸く終わりましたね」
ソフィアが声をかけるが、アイラとウィルソンは浮かない顔をしている。
「そうね、トマス様やアルフレッド様にご挨拶をして、領地に帰りましょう。陛下にもお礼のお手紙をお出ししなくては。
メリッサ達の保護をしていてくれてありがとう」
「4人纏めて、ロンメルの保養地で保護していたので、世話をしていたトスティが一番苦労したみたいです」
ウィルソンが、トスティからの報告を思い出して、苦笑いしている。
「メリッサの事は分からないけど、後の3人が勢揃いしてるなんて、トスティの苦労が想像出来るわね」
「トスティはリリアの実家で長い間楽しんでいたので、釣り合いは取れてると思います」
領地に帰る事をあれ程望んでいたのに、領地には最後の一人が残っている。
ビクターが言っていたのは・・。
2
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
強制憑依アプリを使ってみた。
本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。
校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈
これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。
不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。
その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。
話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。
頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。
まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

彼女が真実を歌う時
傘福えにし
ミステリー
ーー若者に絶大な人気を誇る歌手の『ヒルイ』が失踪した。
新米刑事である若月日菜は『ヒルイ』と関わりのあった音楽療法士の九条凪とともに『ヒルイ』を見つけ出そうとする。
ヒルイの音楽に込められた謎を解き明かしていく中で日菜たちが見つけた真実とは。
愛、欲望、過去、そして真実が交差する新感覚音楽ヒューマンミステリー。
第8回ホラー・ミステリー小説大賞にエントリーしております。
若月骨董店若旦那の事件簿~満開の櫻の下に立つ~
七瀬京
ミステリー
梅も終わりに近付いたある日、若月骨董店に一人の客が訪れた。
彼女は香住真理。
東京で一人暮らしをして居た娘が遺したアンティークを引き取って欲しいという。
その中の美しい小箱には、謎の物体があり、若月骨董店の若旦那、春宵は調査をすることに。
その夜、春宵の母校、聖ウルスラ女学館の同級生が春宵を訪ねてくる。
「君の悪いノートを手に入れたんだけど、なんだかわかる……?」
同時期に持ち込まれた二件の品物。
その背後におぞましい物語があることなど、この時、誰も知るものはいなかった……。

言霊の手記
かざみはら まなか
ミステリー
探偵は、中学一年生女子。
依頼人は、こっそりひっそりとSOSを出した女子中学生。
『ある公立中学校の校門前から中学一年生女子が消息をたった。
その中学校では、校門前に監視カメラをつける要望が生徒と保護者から相次いでいたが、周辺住民の反対で頓挫した。』
という旨が書いてある手記は。
私立中学校に通う中学一年生女子の大蔵奈美の手に渡った。
中学一年生の奈美は、同じく中学一年生の少女萃(すい)と透雲(とおも)と一緒に手記の謎を解き明かす。
人目を忍んで発信された、知らない中学校に通う女子中学生からのSOSだ。
奈美、萃、透雲は、助けを求めるSOSを出した女子中学生を助けると決めた。
奈美:私立中学校
萃:私立中学校
透雲:公立中学校
依頼人の女子中学生:公立中学校
中学一年生女子は、依頼人も探偵も、全員、別々の中学校に通っている。
それぞれ、家族関係で問題を抱えている。
手記にまつわる問題と中学一年生女子の家族の問題を軸に展開。

それは奇妙な町でした
ねこしゃけ日和
ミステリー
売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。
バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。
猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。

戦憶の中の殺意
ブラックウォーター
ミステリー
かつて戦争があった。モスカレル連邦と、キーロア共和国の国家間戦争。多くの人間が死に、生き残った者たちにも傷を残した
そして6年後。新たな流血が起きようとしている。私立芦川学園ミステリー研究会は、長野にあるロッジで合宿を行う。高森誠と幼なじみの北条七美を含む総勢6人。そこは倉木信宏という、元軍人が経営している。
倉木の戦友であるラバンスキーと山瀬は、6年前の戦争に絡んで訳ありの様子。
二日目の早朝。ラバンスキーと山瀬は射殺体で発見される。一見して撃ち合って死亡したようだが……。
その場にある理由から居合わせた警察官、沖田と速水とともに、誠は真実にたどり着くべく推理を開始する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる