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悪霊の棲む屋敷
本当の名前ですか?
しおりを挟むしかし、連絡をとってみると、衛はまだ仕事から戻っていなかったので、それまで、カラオケで時間を潰すことになった。
なったというか、私の提案だ。
「あんたって、ほんと呑気ね」
と言っていた麻紀が一番真剣に曲を選んでいる。
「あのー、本田さん」
次は彼女の番なのに、まだ曲を決めかねている麻紀の横に腰を下ろしながら呼びかけると、意外にバラードが上手い本田が顔を上げた。
「あづささんは首とか絞められてなかったですかね?」
「え?」
「あ、霊にですけど」
どうだろう、と本田は首を傾げる。
「そもそも僕はあづさに霊が見えたっていうのも知らなかったし」
あづさは徹底した秘密主義だったようだから、本田には言っていないというのもわかる気がしたが。
それにしては、衛の方はあづさに霊が見えるのを知っていたな、と思う。
「夜ごと、誰かが私の首を絞めてるんですよね~」
ぼそりと言うと、ひっ、と本田と麻紀が身を引く。
「あれ、私を絞めてるのかなあ」
「あんたの首が苦しけりゃ、あんたが絞められてるんでしょうよっ」
悲鳴まじりに麻紀が叫ぶ。
「えーと……」
とこちらを見て、本田が止まる。
「名前、なんでしたっけ?」
「ああ。
本当の名前ですか?
あづさでいいですよ。
本田さんには不快でしょうが。
本名で呼んでると、うっかり他で呼んじゃいますからね」
そんな話をしている間、麻紀がじっとこっちを見ていた。
「あんたとずっと居るの、不審に思われてるわ。
親戚になるんだから、少しは馴れ合ってた方がいいかと思ってと言ってはいるけど」
「じゃあ、離れますか」
と言うと、私、あんまり友達居ないのよ、と麻紀は言う。
「なんででしょうね?」
自分からすれば、麻紀は、攻撃的ではあるが、ピュアな部分もあるせいか、反応が面白く、付き合いやすい人間なのだが。
「私に言い返してくるのはあんたぐらいだからよ」
と彼女は言う。
パリパリと目の前のポップコーンを食べていると、
「ねえ――」
と麻紀はこちらを上目遣いに見上げて言う。
「あんた、ほんとに花屋の店員?」
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