憑代の柩

菱沼あゆ

文字の大きさ
上 下
29 / 68
悪霊の棲む屋敷

本当の名前ですか?

しおりを挟む
 

 しかし、連絡をとってみると、衛はまだ仕事から戻っていなかったので、それまで、カラオケで時間を潰すことになった。

 なったというか、私の提案だ。

「あんたって、ほんと呑気ね」
と言っていた麻紀が一番真剣に曲を選んでいる。

「あのー、本田さん」

 次は彼女の番なのに、まだ曲を決めかねている麻紀の横に腰を下ろしながら呼びかけると、意外にバラードが上手い本田が顔を上げた。

「あづささんは首とか絞められてなかったですかね?」

「え?」

「あ、霊にですけど」

 どうだろう、と本田は首を傾げる。

「そもそも僕はあづさに霊が見えたっていうのも知らなかったし」

 あづさは徹底した秘密主義だったようだから、本田には言っていないというのもわかる気がしたが。

 それにしては、衛の方はあづさに霊が見えるのを知っていたな、と思う。

「夜ごと、誰かが私の首を絞めてるんですよね~」

 ぼそりと言うと、ひっ、と本田と麻紀が身を引く。

「あれ、私を絞めてるのかなあ」

「あんたの首が苦しけりゃ、あんたが絞められてるんでしょうよっ」

 悲鳴まじりに麻紀が叫ぶ。

「えーと……」
とこちらを見て、本田が止まる。

「名前、なんでしたっけ?」

「ああ。
 本当の名前ですか?

 あづさでいいですよ。

 本田さんには不快でしょうが。

 本名で呼んでると、うっかり他で呼んじゃいますからね」

 そんな話をしている間、麻紀がじっとこっちを見ていた。

「あんたとずっと居るの、不審に思われてるわ。

 親戚になるんだから、少しは馴れ合ってた方がいいかと思ってと言ってはいるけど」

「じゃあ、離れますか」
と言うと、私、あんまり友達居ないのよ、と麻紀は言う。

「なんででしょうね?」

 自分からすれば、麻紀は、攻撃的ではあるが、ピュアな部分もあるせいか、反応が面白く、付き合いやすい人間なのだが。

「私に言い返してくるのはあんたぐらいだからよ」
と彼女は言う。

 パリパリと目の前のポップコーンを食べていると、

「ねえ――」
と麻紀はこちらを上目遣いに見上げて言う。

「あんた、ほんとに花屋の店員?」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

彼女が真実を歌う時

傘福えにし
ミステリー
ーー若者に絶大な人気を誇る歌手の『ヒルイ』が失踪した。 新米刑事である若月日菜は『ヒルイ』と関わりのあった音楽療法士の九条凪とともに『ヒルイ』を見つけ出そうとする。 ヒルイの音楽に込められた謎を解き明かしていく中で日菜たちが見つけた真実とは。 愛、欲望、過去、そして真実が交差する新感覚音楽ヒューマンミステリー。 第8回ホラー・ミステリー小説大賞にエントリーしております。

若月骨董店若旦那の事件簿~満開の櫻の下に立つ~

七瀬京
ミステリー
梅も終わりに近付いたある日、若月骨董店に一人の客が訪れた。 彼女は香住真理。 東京で一人暮らしをして居た娘が遺したアンティークを引き取って欲しいという。 その中の美しい小箱には、謎の物体があり、若月骨董店の若旦那、春宵は調査をすることに。 その夜、春宵の母校、聖ウルスラ女学館の同級生が春宵を訪ねてくる。 「君の悪いノートを手に入れたんだけど、なんだかわかる……?」 同時期に持ち込まれた二件の品物。 その背後におぞましい物語があることなど、この時、誰も知るものはいなかった……。

言霊の手記

かざみはら まなか
ミステリー
探偵は、中学一年生女子。 依頼人は、こっそりひっそりとSOSを出した女子中学生。 『ある公立中学校の校門前から中学一年生女子が消息をたった。 その中学校では、校門前に監視カメラをつける要望が生徒と保護者から相次いでいたが、周辺住民の反対で頓挫した。』 という旨が書いてある手記は。 私立中学校に通う中学一年生女子の大蔵奈美の手に渡った。 中学一年生の奈美は、同じく中学一年生の少女萃(すい)と透雲(とおも)と一緒に手記の謎を解き明かす。 人目を忍んで発信された、知らない中学校に通う女子中学生からのSOSだ。 奈美、萃、透雲は、助けを求めるSOSを出した女子中学生を助けると決めた。 奈美:私立中学校 萃:私立中学校 透雲:公立中学校 依頼人の女子中学生:公立中学校 中学一年生女子は、依頼人も探偵も、全員、別々の中学校に通っている。 それぞれ、家族関係で問題を抱えている。 手記にまつわる問題と中学一年生女子の家族の問題を軸に展開。

それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和
ミステリー
 売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。  バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。  猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。

戦憶の中の殺意

ブラックウォーター
ミステリー
 かつて戦争があった。モスカレル連邦と、キーロア共和国の国家間戦争。多くの人間が死に、生き残った者たちにも傷を残した  そして6年後。新たな流血が起きようとしている。私立芦川学園ミステリー研究会は、長野にあるロッジで合宿を行う。高森誠と幼なじみの北条七美を含む総勢6人。そこは倉木信宏という、元軍人が経営している。  倉木の戦友であるラバンスキーと山瀬は、6年前の戦争に絡んで訳ありの様子。  二日目の早朝。ラバンスキーと山瀬は射殺体で発見される。一見して撃ち合って死亡したようだが……。  その場にある理由から居合わせた警察官、沖田と速水とともに、誠は真実にたどり着くべく推理を開始する。

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

処理中です...