憑代の柩

菱沼あゆ

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悪霊の棲む屋敷

わからない女だ

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 何がよかったですね、だ。

 今、自分が死にかけたのではないのか。

 わからない女だ、と麻紀は思った。

 わからない。
 そして、怪しい。

 あづさは単に胡散臭い女だったが、この女は本気で怪しい。

 途方もなく、何を考えているのかわからない。

 あづさが常人の範囲内で、つまり、何かの策略があり、己れの考えを読ませないようにしていたのだとすると、この女はちょうど真逆だ。

 何も隠す気はないらしいのに、何を考えているのか、さっぱりわからない。

 勘弁して欲しいと思いながらも。

 そう。これが最も困ったことであり、最も実害のあることなのだが。

 どうも、この女、嫌いになれなかった。

 あのときもそうだったな、と思う。

 ちらと見たあのときの女――

「麻紀さん?」
と名も無い彼女は呼びかけて来た。

「……あんたの方が似てるわ」

「え?」

「あんた、なんであづさはあの顔にしたのかって言ってたわね。

 その顔はたぶん、昔、衛が好きだった女の顔なのよ」

 彼女は目をしばたたき、

「衛さんに好きな人なんて居たんですか」

 そういう情緒があるようには見えなかった、と人の良さそうな顔で、自分よりひどいことを言う。

「たぶんね。
 ちらと一緒に居るのを見ただけだけど。

 衛の表情から察して、あの女が衛の好きな人だったのよ。

 誰かと付き合ってるなんて話も親戚連中から聞かなかったから、結局、上手くはいかなかったんじゃない?

 あづさは、何処で知ったのか、その顔をコピーしたんでしょう」

「この顔が、衛さんの好きな人の顔」

 何故、自分が犯人を暴きそうだと思ったのかという問いに、その顔だったから、と答えた衛。

 その表情を思い出す。

「あのあづさよりは、あんたの方が似てるわ。

 同じ顔でも雰囲気がね。
 衛より年上みたいだったけど。

 人が良さそうな幼い顔立ちをしてた」

「その人は今何処に?」

「知らないわよ。
 私が衛にフラれた後だもの。

 それ見たのっ」
と噛みつかれた。

 ……やぶ蛇だ。

「でも、待ってください」
と本田が手を上げる。

「あづさの顔は――

 本物だと思います。

 昔、写真を見せてもらったことがあるので、子供の頃の」

「本当に!?」

 そんな話は御剣衛からも聞いたことはない。

 そんなものがあるのなら、探偵の抱いた疑問に結論は出ていたはずだ。

 彼女の荷物の中に、何も残ってはいなかったのだろうか、と思った。

「その写真、持ってますか?」

「いえ――」
と言ったところで、麻紀が小さく手を挙げた。

「待った。
 あづさが持ってたとしても、それが自分の顔写真かどうかはわからないわよね」

「他人のってことですか?

 それがその衛さんが好きだった女性の写真だったとしたら、子供の頃のものなんですよね?

 あづささんは、なんで、そんなもの持ってたんでしょう?」

 いや、それは、と本田はつまる。

 確かに彼に訊いたところでわかりはしないだろう。

 よし、と私は立ち上がった。

「御剣衛に訊きましょう」

「はあ?」

「だって、本人に訊くのが一番早いじゃないですか。
 その女性が誰だったのか」



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