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偽りの婚約者
誰が花を贈ったのか?
しおりを挟む「本田ね」
と呟く衛は、顔だけ見ていると、然程興味もなさそうに見えた。
本田が事件に関係ないとしても、恋人に近しい男が居たというだけで、落ち着かない気持ちにならないものだろうか。
これが何事にも勝って来た人間の余裕という奴だろうか、と思った。
「それにしても、友人も来ない、親族にも歓迎されていない式に、そもそも、誰が花を贈ったのかって話ですよね。
誰も知らないのに。
まず、不審に思いますよね。
親族が貴方のご機嫌取りに送ったとか?
取引先はそんな出しゃばった真似はしないでしょうし。
万が一、そういう相手が送ったのだとすると、貴方の方に送るのではないですかね?
花嫁ではなく」
花嫁の控え室の方に送られてたんですよね?
と確認する。
「まあ、内緒にしてたとは言っても、もれてたとは思いますけどね。
いろいろなところに。
ねえ、衛さん、本当に犯人に心当たりはないんですか」
「あったら、こんなまどろっこしい真似なんかするか」
まあ、ごもっとも。
「あづささんって、ご親族の方はいらっしゃらないんでしたっけ?」
確か身寄りがないと聞いたが、と思いながら確認する。
まあ、そういう状況でなければ、この入れ替わりは成立しなかったわけだが。
「親族は居る。
家族が居ないだけだ。
両親が死んだとき、遺産を掠め取ろうとした親族ばかりなんで、付き合いはないと言ってたよ」
だから、式にも呼ばなかった、と言う。
「突っ込んで訊いて悪いんですが、あづささんのご両親はどうして亡くなられたんですか?」
「……火事だと聞いている」
少し迷って、衛は言った。
「別荘が火事になって、助かったのは、あづさだけだったそうだ」
「火事ですか」
「保険金もかなり入ったようだ」
「だから、親戚が群がった、と。
お宅のお父様のときも、かなり出たでしょうが。
ま、御剣一族にとっては、はした金ですかね」
何故だか、金に対しては辛辣になってしまう。
衛は少し笑って言った。
「今回の件、無事に解決できたら、お前に報酬をやろう」
「報酬?」
「五億四千万」
「なんですか。
その半端な金額は」
「それでチャラだ。
何もかも――」
衛はそのまま、帰ると言い出した。
「それはそれは、お気をつけて」
一人で考えたいことでもあるのかと早々に送り出す。
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