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偽りの婚約者
大学図書館
しおりを挟む「本田一範って言うんです。その人。
ご存知でした? あづささんと親しいみたいでしたよ、……かなり」
ちょっと言いつけるみたいな感じになるから言うの、厭だったんですよねー、と付け加えた。
「なんか可愛い顔した男の人です。
身長は私より少し高いくらい……あ、あづささんて、身長は」
「お前の方が少し高いな。
だが、ほとんど変わらないはずだ」
「そうですか。
じゃあ、大丈夫でしょうけど。
あの人、あづささんに気があるみたいでした」
「どうして、先に言わないんだ」
と衛は眉をひそめる。
「犯人の可能性もあるじゃないか」
「貴方と結婚すると知って、逆恨みですか?
でも、そういうタイプには見えなかったですね。
――と、言いますか」
「なんだ?」
と衛は言ったが、さすがに此処で答えるのもどうかと思い、踏みとどまる。
違う話をした。
「いえ、その彼と身長が微妙だったので。
そういうところから気がつくんじゃないかなと思って。
ギリギリ自分の方が高いとかだったら、気にしてるもんでしょ、男の人って」
「そうだな。
僕も昔気にしてた」
「衛さんでもですか?」
「高校の途中まではそう大きい方じゃなかったんだ」
ということは、衛の好きな女は、彼より大きいか、ギリギリ彼の方が大きいくらいだったのだろうかと思う。
「まあ、特に興味はないですが」
「じゃあ、訊くな」
また怒らせてしまったようだと思う。
しかし、私の言い方が悪いというより、どうもこの男の気が短いような気が。
自分だけのせいではないと思う。
今日の昼、大学の図書館で新聞をめくっていた。
この事件か。
小さく教会の爆破事件が報じられている。
その事件での死亡者のところに、自分のものらしき顔写真があったが、相変わらず、新聞の白黒写真というのは、いつのものだかわからない上に、よく見えない。
顔を寄せて、それを睨んでいると、
「あづさ」
という声が聞こえた。
えーと。
これは私を呼んでるのかな、と思い、振り返る。
自分と同じくらいの身長の青年が居た。
御剣衛のような美形ではないが、穏やかで好感の持てる風貌をしている。
「式場が爆破されたって聞いたけど、大丈夫だったの?」
式場が爆破されて大丈夫なんてことはまずないだろうよ、と思ったが。
「ああ、うん、なんとか」
と答える。
男はそこで、少し妙な顔をした。
あ、やば。
もしかして、童顔だけど、年上なのかな?
敬語で話すべきだったか。
新聞を閉じ、頬に軽く手をやり言った。
「爆発のショックでちょっと記憶が混乱しちゃってて」
そう言えと、衛に言われていた。
ごめんなさい、と頭を下げると、
「そう殊勝にされると不気味だね。
性格まで変わっちゃったみたいだ」
と彼は寂しそうに笑って見せる。
その困ったような顔に、彼の真意を知った。
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