憑代の柩

菱沼あゆ

文字の大きさ
上 下
10 / 68
偽りの婚約者

貴方の婚約者でしょう?

しおりを挟む
 
「なんだか一心不乱にガサガサやってます。

 あづささんが居ないときに、そのポーチ、ちょっと探してみたんですが、今、此処にはないようですね」

 衛にその形状を伝え、心当たりはないかと訊いてみたが、ないと言う。

 まあ、この男、女の持ち物になんか注意を払ってそうにもないが、と思ったが。

「洗面所があづささんで、首絞めたのは――

 うーん。
 誰なんでしょうね。

 あっちも顔わからなかったので、意外と、あづささんだったりして」

「何故、あづさがお前の首を絞めてくる?」

「爆死させた私を恨んで出てきたとか」

 馬鹿馬鹿しい、と衛は一言で吐き捨てる。

「いや、わかんないじゃないですか。

 ああ、あづささんは、人を恨むような人ではなかったと言うのなら、そうかもしれませんが」

 そう言うと、衛は、さあ、どうだろうな、と言う。

「どうだろうなって」

「そういうとき、どいういう行動をとる人間だったかなんてわからないと言ったんだ」

「待ってくださいよ。
 貴方の婚約者でしょう?」

 それも、周囲の反対を押し切ってまで学生結婚しようとしていた相手のはずだ。

 意外とそういうことはわからないものなのだろうか、と思っていると、衛は、

「お前だってそうじゃないのか?

 好きな相手が何をして、何を考えていてるかなんて意外と見えてないんじゃないのか?

 自分の好きという感情だけが前に出ていて」
と言う。

 私が目をしばたいていると、衛は怪訝そうな顔で、なんだ? と訊いてきた。

「ああ、いえ。
 ちょっと貴方が恋愛話なんてされるのが意外だったので」
と言うと、

「お前が振った話だろ」
と言う。

 まあ、それはそうなのだが。

 そうやって、情熱的にあづさと結婚しようとした男に衛は見えないというか。

 何かこう、彼の言動はいちいち冷めているように見える。偽の婚約者を仕立ててまで、犯人を突き止めようとしている男には見えないというか。

 まあ、もともと、そういう顔なのだろうなと理解することにした。

「感情が顔に出ない男の人って、周りの人間からすると、困惑することが多いですけど、モテますよね」

と率直な感想を述べてみたが、衛は、とてつもなく興味のなさそうな顔をしていた。

 はいはい、貴方程の方にとっては、どうでもいいことでしょうけどね、と思いながら、八つ当たりのように言った。

「飲んでくださいよ、お茶。
 冷めるじゃないですか」
と話しながら目の前に置いていたお茶を手で示す。

 衛は言われるがまま、お茶を口許に運びながら、私が霊が出る、と言った洗面所の方に視線を向けていた。

 何を考えているのかな、と思う。

 見てみたいのだろうか。

 それが爆死してしまった婚約者の姿なら、例え、霊となっていても――。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

仮初め後宮妃と秘された皇子

くろのあずさ
キャラ文芸
西に位置する長庚(ちょこう)国では、ふたつの後宮が王家の繁栄を支えてきた。 皇帝のために用意されている太白宮と次期皇帝となる皇子のために用意されている明星宮のふたつからなり、凜風(リンファ)は次期皇帝の第一皇子の即妃、珠倫(シュロン)の女官として仕えている。 ある日、珠倫に共に仕えている女官の春蘭(シュンラン)があと三ヶ月で後宮を去ると聞かされ…… 「あの、大丈夫です。私もたいして胸はありませんが、女性の魅力はそれだけじゃありませんから」 「……凜風はやはり馬鹿なのですか?」 孤児で生まれ虐げられながらも、頑張るヒロインが恋を知って愛され、成長する成り上がり物語

処理中です...