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偽りの婚約者
貴方の婚約者でしょう?
しおりを挟む「なんだか一心不乱にガサガサやってます。
あづささんが居ないときに、そのポーチ、ちょっと探してみたんですが、今、此処にはないようですね」
衛にその形状を伝え、心当たりはないかと訊いてみたが、ないと言う。
まあ、この男、女の持ち物になんか注意を払ってそうにもないが、と思ったが。
「洗面所があづささんで、首絞めたのは――
うーん。
誰なんでしょうね。
あっちも顔わからなかったので、意外と、あづささんだったりして」
「何故、あづさがお前の首を絞めてくる?」
「爆死させた私を恨んで出てきたとか」
馬鹿馬鹿しい、と衛は一言で吐き捨てる。
「いや、わかんないじゃないですか。
ああ、あづささんは、人を恨むような人ではなかったと言うのなら、そうかもしれませんが」
そう言うと、衛は、さあ、どうだろうな、と言う。
「どうだろうなって」
「そういうとき、どいういう行動をとる人間だったかなんてわからないと言ったんだ」
「待ってくださいよ。
貴方の婚約者でしょう?」
それも、周囲の反対を押し切ってまで学生結婚しようとしていた相手のはずだ。
意外とそういうことはわからないものなのだろうか、と思っていると、衛は、
「お前だってそうじゃないのか?
好きな相手が何をして、何を考えていてるかなんて意外と見えてないんじゃないのか?
自分の好きという感情だけが前に出ていて」
と言う。
私が目をしばたいていると、衛は怪訝そうな顔で、なんだ? と訊いてきた。
「ああ、いえ。
ちょっと貴方が恋愛話なんてされるのが意外だったので」
と言うと、
「お前が振った話だろ」
と言う。
まあ、それはそうなのだが。
そうやって、情熱的にあづさと結婚しようとした男に衛は見えないというか。
何かこう、彼の言動はいちいち冷めているように見える。偽の婚約者を仕立ててまで、犯人を突き止めようとしている男には見えないというか。
まあ、もともと、そういう顔なのだろうなと理解することにした。
「感情が顔に出ない男の人って、周りの人間からすると、困惑することが多いですけど、モテますよね」
と率直な感想を述べてみたが、衛は、とてつもなく興味のなさそうな顔をしていた。
はいはい、貴方程の方にとっては、どうでもいいことでしょうけどね、と思いながら、八つ当たりのように言った。
「飲んでくださいよ、お茶。
冷めるじゃないですか」
と話しながら目の前に置いていたお茶を手で示す。
衛は言われるがまま、お茶を口許に運びながら、私が霊が出る、と言った洗面所の方に視線を向けていた。
何を考えているのかな、と思う。
見てみたいのだろうか。
それが爆死してしまった婚約者の姿なら、例え、霊となっていても――。
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