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偽りの婚約者
日常と非日常
しおりを挟むしかし、よくわからない。
窓から吹き込む風に、一瞬嗅いだ匂い。
それを懐かしく感じながら、私は小首を傾げていた。
御剣衛の婚約者、佐野あづさが教会で爆死した。
どうやら、教会で前撮りと衣装合わせをしていたところらしい。
花屋の私が持っていった花に爆弾が入っていたから、責任を取れということらしいが。
「普通に犯人を探したのでいいと思うんですが。
何故、あづささんの死体と私を入れ替えてまで、犯人を探す必要があったんでしょう」
現場となった教会は此処から見える位置にある。
救急車より早く到着していた要と、現場に居た衛がそれを決めたらしいが。
「行動、早過ぎですよね。
幾ら警察が信用できないからって。
そりゃあ、犯人はあづささんがまだ生きているとわかれば、すぐに狙ってくるでしょうが。
最初はまず、悲しみに打ちひしがれたり、現実が受け入れられなかったりするものなんじゃないですか?
すぐに犯人探しに頭が向きますかね?
事故だとか思ったり」
「ガス爆発なら、事故かもしれないけどな。
花が爆発したら、事故じゃないだろう」
「それはそうですが。
整形してまで、死んだ人間を生きているように見せかけるなんて。
御剣の総帥としての立場や、要先生の医師としての立場はどうなるんですか?」
要は何故かおかしそうに笑いながら、
「だから、そんなことどうでもいいくらい、犯人を捕まえたかったんだろ?」
と言う。
何故、そこで笑う、と思った。
あづささんは死んでいるのに、この人、あづささんをあまり好きではなかったのか?
そのとき、ふいにノックの音がした。
はい、という要の声のあと、ドアが開く。
ああ、目が見えるって素敵だ、と思った。
すぐに人の顔が確認できる。
包帯が取れてから初めて見た気がする誠実そうな顔をした青年が現れた。
なんとなく、ほっとする。
なんだか、自分の思い描く日常というものに近そうな人だったからだ。
ということは、こいつらは、非日常ってわけだな、と思いながら、要をちらと見ると、彼は、
「じゃあ、私は席を外しましょう。
兼平さん、くれぐれも無理をさせないようにしてください」
とその男に言った。
こちらを振り返り、
「刑事さんだ」
と嘘くさい笑みを見せる。
突然、手首の脈を診る振りをして私に近づき、小声で囁く。
「衛の高校の同級生だ」
すぐに離れた。
普通なら、だから、気を許しても大丈夫、という意味なのだろうが。
その口調も表情も、だから、気をつけろ、という風に取れた。
衛と同じ高校ってことは、頭もいいのか。
要注意、と上目遣いに窺いながら、ぺこりと頭を下げた。
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