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ポイッと捨てられました
ファン王子の思惑
しおりを挟む「どうだ。
そろそろ、セシルは音を上げたか」
周辺国にも美貌で名を轟かす、王子 ファンは、幼なじみでもある黒髪の凛々しい騎士、バレルにそう問う。
二人は宮殿の片隅にあるセシルお気に入りの庭にいた。
彼女は派手な造りの庭園よりも、その辺に咲く草花の美しさをも取り込んだような庭を愛した。
「……音を上げるもなにも。
まだ、先ほど、悪魔の木の下に置いて帰ったばかりのようですが」
「街でしか暮らしたことのないものが、一日だって、山の中になぞいられないに決まっている。
誰か様子を見に行くように言え」
ほんとうにめんどくさい人だな、と思いながら、バレルは王子を見た。
王子と同じ、光り輝く金の髪をした愛らしきセシル様。
少し幼い顔立ちと無邪気な雰囲気をまとってはいるが、中身は王子より遥かに聡明。
この王子では、セシル様の相手としては、いささか役不足だったか、と辛辣な幼なじみバレルは思っていた。
「謝るなら今だぞ、セシル」
あの日。
パーティでの婚約破棄のあと、王子は、みなの前でセシルにそう言っていた。
「えっ? なにを?」
とセシルが王子に訊き返す。
公爵令嬢セシルとファン王子もまた、幼なじみだった。
しかも、セシルはファンの三つ上。
セシルはファン王子を弟のように思っているようだった。
「いっ、いろいろだっ。
いろいろっ」
とうろたえる王子にセシルが問う。
「そういえば、あなた、私と婚約破棄して、誰と結婚するの?」
「えっ?」
「だって、この国の王子は学院を卒業したら、大抵、すぐ結婚するじゃない。
あなたも、三年後には卒業するでしょう?
お妃教育は早くはじめないと」
私なんて、子どもの頃からしてたのに、とセシルは言う。
それを聞いた王子は、
「誰かとするよっ。
いつかするよっ」
と曖昧なこと主張を繰り返す。
やはり、セシル様の方が格上な感じだな……とバレルは二人のやりとりを眺めていたが。
気がつけば、王様と王妃様も、ふう~と息子を見て、深いため息をもらしていた。
「セシルッ、婚約破棄はしないでくださいとか言うのなら今だぞっ。
やっぱり、私、王子を愛していました。
捨てないでくださいとか言うのなら、今だぞっ」
だが、セシルはバレルの方を振り向き言った。
「バレル。
案内してくださる?
その悪魔の木の下まで」
バレルはセシルの前に跪くと、うやうやしく彼女の手をとった。
「あなたがお命じになるのなら、どこまでも。
大輪の花のごとき、美しきセシル様」
それを見ていた王妃がため息をついて言う。
「……ファンがあのくらいのこと、言えていたらねえ」
バレルがセシルの手をとり、会場を後にする間、王子は後ろでなにか一生懸命叫んでいた。
「やっぱり、結婚してくださいとかっ。
やっぱり愛していますとか言うのなら今だぞっ。
今まで弟扱いして、すみませんでしたとかっ。
やっぱり好きですとか言うのなら今だぞっ」
「……あの、なんか、すみません」
とどうしようもない幼なじみの代わりにバレルはセシルに謝った。
「大丈夫。
いつものことじゃない」
今、あらぬ罪を着せられ、婚約破棄されたばかりだと言うのに、カラッとセシルは笑う。
セシル様。
無理して笑われなくてもいいのですよ。
無理して……
してないかな。
なんか、すっきりサッパリしてそうだ。
結局、バレルはセシルを送り出す一行には加えてもらえなかったが。
早めに、王子の目を盗み、セシルの様子を見に行こう、とは思っていた。
まあ、その前に、セシルは悪魔を名乗る、善良な領主に悪魔の木の下から連れ出されていたのだが――。
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