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第三章 禁断のプロポーズ
前聞いたときより、条件増えてませんか?
しおりを挟むなんだか私より、水沢さんの方が犬みたいだな、と未咲は思っていた。
可愛い感じの大型犬というか。
ゴールデンレトリバーとか。
「はい」
とアイスを割ってあげると、水沢は、
「ありがとう」
と受け取ったあとで、
「なに見てんの?」
と言う。
「いえ、なんでもないです。
すみません」
先輩に対して、犬みたいですね、と言うのもどうだろうと思い、黙っていた。
「なになに?
夏目より、専務より、僕の方が格好いいって気がついた?」
「水沢さんが格好いいのは、知ってますよ」
「なんか胸に響いてこないだけよね」
未咲の言葉に被せるように、桜がそう言った。
「……ひどいこと言うねえ、君たち。
あれかな?
僕に金も権力もなさそうだからかな?」
金はなさそうにはないが、と思いながら、
「そういうのじゃないんですけど」
と言うと、桜が呟く。
「そりゃあ、金と地位と名誉のついたイケメンの方がいいですけど」
「桜さん、前聞いたときより、増えてませんか?」
「貪欲だねえ、女って」
ストレートに言われて、克己は苦笑いしていた。
「でも、……好きになったら、もう関係ないですよね。
その人が貧乏になろうとも」
「専務はどう転んでも貧乏にはなりませんよ」
今の地位関係なしに、金持ちだからな、と思っていた。
「地位は失うかもね。
遠崎夏目が次期社長になれば」
子会社に役員として、出向させられるかも、と言う。
「そんなこともないと思いますが」
「遠崎が望まなくても、周りがきっとお膳立てするわ」
「万が一、そんなことになっても、と……専務なら、また、這い上がってきますよ」
「信頼してるのね」
「まあ、一応。
切れ者だし、ああ見えて、意外に情があるし、部下がついてこないこともないと思います」
今、佐々木を見ていても、そう思う。
「でも、気を抜いたら、後ろから斬りつけられそう、とは思うんですけどね」
「ねえ……ほんとに専務のこと信用してるの?」
不安げに桜が言ってくる。
「いや、未咲ちゃんらしいよね」
と克己は笑っていた、
「信用してないわけじゃないけど、後ろから斬られたときの準備も怠らないっていう。
だから、ぱっと見、忠実な子犬みたいなのに、なにかこう、胡乱なところがあって、ミステリアスというか。
でも、その専務以上の用心深さ。
君が一番、社長に向いてるかもね」
冗談で言ったのだろうが、昨日の話を思い出し、ぎくりとしていた。
なんのために、自分はこの会社に入れられたのか。
そんな疑念を抱きながらも、
「いや、専務みたいな人と長くいると、警戒心も強くなりますよ。
なに考えてんだか、わからないから」
と言うと、桜に、
「あんたが一番、なに考えてんだかわかんないわよ」
と言われた。
本当に。
智久はなにを考えているのかわからないから。
……本当に気が抜けない。
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