禁断のプロポーズ

菱沼あゆ

文字の大きさ
上 下
61 / 95
第三章 禁断のプロポーズ

ボジティブだな

しおりを挟む
 
「私、海外に行こうかと思います」

「また唐突だな。
 二時間サスペンスのラストか」
と智久は言う。

 カップ麺が食べたい、と言うので、部屋で作ってやって、二人向かい合って、食べようとしたときのことだった。

「海外行っても、なんにも解決できないし、傷も癒えないと思うが」

「いえ、夏目さんを連れて海外に。
 何処かに兄妹で結婚できる国があると思うんですが」

「……ボジティブだな」

「タイムマシンを発明して、過去に飛んだ方がいいぞ。
 幾らでもそんな国がある。

 血筋を守るために、身内で婚姻することを推奨してた国も多いしな」
と最近流行りの高そうなカップ麺ではなく、昔からある極普通のラーメンを啜りながら智久は言う。

「じゃあ、会社やめて研究室に入ります」

「大学入り変える金は、もう出さんぞ。
 五十万じゃ、入れないだろうな」

「いや、もう五十万はないです。
 食べちゃったし」

「ヤギか」

「あなたは何処まで本気で言ってるんですかね?
 桜さんと高いランチ食べに行ったんですよ」

 高いランチね、と智久が失笑する。

 まあ、高級な食材を食べ過ぎて、カップ麺を食べたがる男にはわかるまい、と思った。

「それにしても、平山桜がお前に気を許すとはな。
 あの女、お前の姉さんのことは敵視していたようだが」

「桜さんは、愛人なんてやってる女はお嫌いだそうです。
 仲は悪くはなかったようですが。

 そういうところは許せなかったんじゃないですかね?」

「愛人ね……」
と智久が笑う。

「なんですか」

「言ってみれば、お前も俺の愛人じゃないのか。
 俺から、金もらって生活してたんだから」

「愛人らしいことをしたことはありませんが」

「してみるか」

「結構です。
 今、ナーバスなんですってば、あなたのせいで」

「俺のせいにするなよ。
 お前の出生のせいだろう。

 恨むのなら、親を恨め」

「貴方が墓場まで持っていけばよかったじゃないですか、その秘密っ」
と箸を置いて言うと、

「八つ当たりにも程があるぞ」
と言われた。

 まあ、ごもっともだが。

「……私の出生について、智久さんはご存知なんですよね。
 初めて私と会ったとき、なんておっしゃったんですか?」
と言うと、うん? という顔をする。

「なんで、こんなに親切にしてくれるんですか? と私が訊いたときです」

 あのときの智久の口の動きが今もまだ頭に残っていた。

 智久は少し笑って、言う。

 あのときと同じ口の動きで。

 ソノ顔 ダカラナーー と。


しおりを挟む

処理中です...