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第三章 禁断のプロポーズ
ボジティブだな
しおりを挟む「私、海外に行こうかと思います」
「また唐突だな。
二時間サスペンスのラストか」
と智久は言う。
カップ麺が食べたい、と言うので、部屋で作ってやって、二人向かい合って、食べようとしたときのことだった。
「海外行っても、なんにも解決できないし、傷も癒えないと思うが」
「いえ、夏目さんを連れて海外に。
何処かに兄妹で結婚できる国があると思うんですが」
「……ボジティブだな」
「タイムマシンを発明して、過去に飛んだ方がいいぞ。
幾らでもそんな国がある。
血筋を守るために、身内で婚姻することを推奨してた国も多いしな」
と最近流行りの高そうなカップ麺ではなく、昔からある極普通のラーメンを啜りながら智久は言う。
「じゃあ、会社やめて研究室に入ります」
「大学入り変える金は、もう出さんぞ。
五十万じゃ、入れないだろうな」
「いや、もう五十万はないです。
食べちゃったし」
「ヤギか」
「あなたは何処まで本気で言ってるんですかね?
桜さんと高いランチ食べに行ったんですよ」
高いランチね、と智久が失笑する。
まあ、高級な食材を食べ過ぎて、カップ麺を食べたがる男にはわかるまい、と思った。
「それにしても、平山桜がお前に気を許すとはな。
あの女、お前の姉さんのことは敵視していたようだが」
「桜さんは、愛人なんてやってる女はお嫌いだそうです。
仲は悪くはなかったようですが。
そういうところは許せなかったんじゃないですかね?」
「愛人ね……」
と智久が笑う。
「なんですか」
「言ってみれば、お前も俺の愛人じゃないのか。
俺から、金もらって生活してたんだから」
「愛人らしいことをしたことはありませんが」
「してみるか」
「結構です。
今、ナーバスなんですってば、あなたのせいで」
「俺のせいにするなよ。
お前の出生のせいだろう。
恨むのなら、親を恨め」
「貴方が墓場まで持っていけばよかったじゃないですか、その秘密っ」
と箸を置いて言うと、
「八つ当たりにも程があるぞ」
と言われた。
まあ、ごもっともだが。
「……私の出生について、智久さんはご存知なんですよね。
初めて私と会ったとき、なんておっしゃったんですか?」
と言うと、うん? という顔をする。
「なんで、こんなに親切にしてくれるんですか? と私が訊いたときです」
あのときの智久の口の動きが今もまだ頭に残っていた。
智久は少し笑って、言う。
あのときと同じ口の動きで。
ソノ顔 ダカラナーー と。
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