禁断のプロポーズ

菱沼あゆ

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第三章 禁断のプロポーズ

あの人なんとかしてください

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「おはようございますーっ」

 未咲はいつものように秘書課に行くと、灰原たちは挨拶を返してくれたが、何故か桜から返事がなかった。

 ちらとこちらを見たが、視線をそらしてしまう。

 まるで最初の頃のような感じだ。

 専務室で智久がおらず、佐々木もいないときに訊いてみた。

「どうしたんですか? 桜さん。
 初めて会った頃みたいに高飛車ですが」

「あんたね」
といつものように振り向きかけて、桜はやめた。

「言いたいことがあるのなら言ってください。
 気持ち悪いから」

「ストレートね。
 あんた、そういうところ、専務と似てるわ」

 桜はひとつ溜息をついて言う。

「あんた、昨日専務と此処で抱き合ってなかった?
 確か、帰るって言ったあとで」

「一度帰りましたよ。
 戻ってきて、一万円あげようとしたら、桜さん、拒否されたじゃないですか。

 今日、高いランチ食べに行きましょうよ。
 おごりますから」

「それはいいんだけど。
 説明してくれる?」

 真正面からそう言われ、わかりました、と言った。

「智久さんは怒るかもしれませんが――」
「智久さん?」

「いちいち引っかからないくださいよ、もう~っ。
 今、私以上にナーバスな人間なんていないくらいなんですから。

 私は、二千万で専務に飼われてるスパイなんです」

「それ、ほんと?」
「微妙に嘘です」

「あんたね」
と言われ、

「いや、単に説明がめんどくさいのと、桜さんのような方がせっかく専務を想ってくれているのに、嫌いになられちゃ困るんで。

 どうかあの人の性格を矯正してください」
と迷惑なお願いをする。

 よく考えたら、ろくでもない。

 自分と夏目が兄妹だと知って、黙っているなんて。

 かと言って、それで夏目を苦しめようと企むほど、性悪が悪いわけでもない。

 所詮、おぼっちゃまだからな、と未咲は思った。

「ほんと、お願いですよ。
 桜さん、あの人、なんとかしてください~っ」

 未咲は桜の両肩に手を置き、すがりつく。

「なに言ってんのよ、もう~っ。
 わかったわよ。

 って、なんだかわかんないけど、あんたと専務が親しくて、そういう関係じゃないのなら。
 私に協力しなさいよ」

 もちろんです~、と未咲は桜を拝んだ。


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