上 下
75 / 77
というわけで、結婚してくださいっ!

ついにたどり着きましたっ!

しおりを挟む
 


「着いたぞ、鈴っ。
 九州だ!」

 夜明けの関門橋を渡りながら、尊が叫ぶ。

「ついに来ましたねっ」
と結構な勢いで昇ってくる朝日に照らされた海と白い橋を見ながら、鈴も歓喜した。

 数志が居たら、
「いや……、昨日も来ましたよね?」
と冷静に突っ込んでくるところだろうが。

 橋を渡り終え、しばらく走る。

 やがて見えてきた九州だろうが、本州だろうが変わらない街並みに、鈴は、

「……やっぱりなにもありませんね」
と言って笑った。

 いや、なにもないわけではないのだが。

 此処が天竺なわけでもなく。

 取ってくるだけで、自分たちの罪が許されたり、明るい未来がひらけてくるような経典があるわけでもない。

「そうだな……」
と尊も頷いたが、笑っていた。

 なんだろう。

 めちゃくちゃ寝不足なのに。

 なにひとつ問題は解決していないのに。

 朝日の中、この街を走っていると、なにやら、爽快な気持ちになってくる。

 なにかから解き放たれたようなというか――。

 そんなことを鈴は思っていたのだが、尊は、

「お前のしょうもない小話を聞いている間に着いてたな」
と言いながら、苦い顔をしている。

「あれ? お気に召しませんでしたか?」
と尊を振り向き、訊くと、尊は、

「いや、……ハリネズミの話が気になっただけだ」
と言ってくる。

 あー、最初に話したハリネズミの話、
と清白邸を出てすぐ、夜道を走りながら語った話を鈴も思い出す。

 実は、友だちがハリネズミを飼っているのだが。

 ふと気になって、ある日、訊いてみたのだ。

「ハリネズミって、撫でたりしたら刺さらない?」
と。

 すると、友だちは、
「だから一方通行なのよ」
と言ってきた。

 愛情が?
と思ったのだが、撫でる方向だった、という話だ。

 何処が気になっているのだろう……?

 もしや、愛情が一方通行だというところだろうか、と思い、チラ、と鈴は横目に尊を窺ってみた。

 すると、チラ、と尊もこちらを窺う。

 尊さん……。
 私も気になっています。

 私のこの愛情は一方通行ではありませんか?

 九州まで連れてきていただいたので、少しは私のことを思っていただけているのでは? とずうずうしくも、期待してみたりしているのですが。

 実は、貴方にとっては、これはまだ、復讐のつづきだとか?

 恋する乙女は常に懐疑的だ。

 不安な気持ちで尊を窺っていると、尊が前を見たまま、

「……とりあえず、社宅に行くか」
と言ってきたので、鈴は、

「あっ。
 はっ、はいっ」
と慌てて返事をした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

出会ったのは間違いでした 〜御曹司と始める偽りのエンゲージメント〜

玖羽 望月
恋愛
 親族に代々議員を輩出するような家に生まれ育った鷹柳実乃莉は、意に沿わぬお見合いをさせられる。  なんとか相手から断ってもらおうとイメージチェンジをし待ち合わせのレストランに向かった。  そこで案内された席にいたのは皆上龍だった。  が、それがすでに間違いの始まりだった。 鷹柳 実乃莉【たかやなぎ みのり】22才  何事も控えめにと育てられてきたお嬢様。 皆上 龍【みなかみ りょう】 33才 自分で一から始めた会社の社長。  作中に登場する職業や内容はまったくの想像です。実際とはかけ離れているかと思います。ご了承ください。 初出はエブリスタにて。 2023.4.24〜2023.8.9

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚

日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...