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地獄の釜の底 リターンズ
こんなところに
しおりを挟む「親父、こんなところに。
……現実逃避か」
尊の言葉に、いやあ、という尊の父、正明は庭にある守衛室に居た。
正明は椅子に座り、屋敷の中の監視カメラの映像を見ている。
「あんたが開けてくれたんだったのか、門」
「早くに帰ってたんだ。
落ち着くぞ、此処」
と言う正明は、立派な風貌と、立派な服装で、ちょこんと守衛室の椅子に座っている。
まあ、この人もこの人で、大変ではあるんだろうが。
この人の場合、自業自得だからな、と思いながら、尊は溜息をつく。
そのとき、守衛室の扉が開いた。
「あー、尊様。
こんなところに。
二階に居ろと言ったのに」
と呑気に笑う数志は、物のついでのように言ってきた。
「あ、そうだ。
鈴様が襲われてますよ、地下牢で」
と母屋を指差す。
「とめろよっ」
と叫んだ尊が、肝心なところで当てにならない数志の横を通り抜けようとしたとき、
「尊」
と正明が呼びかけてきた。
「なんだよっ」
と尊が喧嘩腰に振り返ると、
「お前は道を間違えんようにな」
と正明は言ってくる。
「そのセリフは征に言えっ。
あいつは、あんたにそっくりだっ!」
と言い捨て、守衛室の建物を出ると、数志がついて来ながら、
「じゃあ、正明様にまるで似ていない尊様は、和音様そっくりってことですかねー?
ご両親のどちらかには似るはずでしょ」
と笑う。
和音は、尊の母だ。
実の親なのだが、なんだか苦手な人だった。
叔母である、泉美以上に――。
「揚げ足をとるな……。
っていうか、ついて来るな、裏切り者め」
と言ってやったのだが、数志は、
「いやいやいや。
俺も難しい立場なんですよねー。
だから、ついては行くけど、なにも助けませんからねー」
とケロッと言ってくる。
「じゃあ、ますます付いて来るなーっ!」
しっし、と数志を手で払いながら、尊は母屋へと急いだ。
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