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金の王子か、銀の王子か
叩き起こせばいいじゃないですか
しおりを挟む鈴は征に電話したんだろうか、とか考えていて、長湯になってしまった。
「もう出ますよっ」
と数志に怒られ、離れに戻った尊は、迷いながら中に入った。
自分が帰ったときのためか、玄関にも部屋にも明かりはついていたが、鈴の姿はない。
「……鈴」
と呼びかけ、露天の方を見たが、明かりはついていなかった。
まさか、と思い、寝室を開けてみる。
二つあるベッドのうちの片方で、すやすやと鈴は眠っていた。
何故寝ている!
今日が最後の夜なんだぞっ、鈴!
さっき、帰りません! と言ってくれたときには、俺のこと好きなのかなとか期待してしまったのに!
人が迷い、恥じらっている間に寝るなー!
数志の、
「叩き起こせばいいじゃないですか」
という声が聞こえた気がしたが。
いや、可哀想だろうがっ! と思う。
だが、待て待て。
一足飛びはいかんな、と落ち着こうとする。
まだキスもしていないのに。
そうだ。
キスだけでも……と思って、気がついた。
そういえば、鈴は征と式のとき、誓いのキスをしたんだろうか。
俺が行ったのは、奴らがキスする前だったのか、後だったのか。
前?
後?
前っ?
後っ?
ステンドグラスのきらめく教会で、真っ白なドレスを着た目の覚めるような美しい鈴が新郎、征に口づけられている場面を妄想する。
とても綺麗な光景ではあるが、俺は見たくないっ、と思う。
鈴っ。
前だったのか、後だったのかっ。
どっちだっ、鈴っ。
前?
後?
前っ?
後っ? と考えていたら、何故かぽすの前足、後ろ足が交互に頭に浮かび始めた。
いかん。
動転してきた……。
尊は、本館の廊下を歩き、その部屋のチャイムを鳴らした。
ドアが開かないまま、インターフォンから声がする。
「来ましたねっ。
来ると思ってましたよ!
泊めませんよっ!」
と数志が叫ぶ。
「てか、女子が忍んでくるならともかくっ、男はお断りですっ。
さっさと帰って、鈴様と最後の夜をお過ごしくださいっ」
「だって、鈴、寝てるんだっ」
「叩き起こしなさいっ」
と案の定、数志は言ってくる。
「あんな可愛い鈴になにかするとか可哀想だろうっ」
とすやすや眠っていた鈴を思い出しながら、深夜なので、抑えた声で叫ぶと、
「貴方が可哀想がってるうちに、征様がなにかしますよっ。
っていうか、鈴様、あんなだけど、ちゃんと生身の大人の女性ですよ。
早く手をつけないと、誰かがつけますよっ。
征様とか、俺とか、窪田さんとかっ」
「なんかいろいろ混ざってるぞっ!?」
「遊びで手を出す男もいるって話です。
それくらいなら、深く鈴様を愛している貴方にどうにかされた方が鈴様も本望でしょうっ。
俺は明日早いんですっ。
おやすみなさいっ」
と言って、数志はブツッとインターフォンを切ってしまった。
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