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金の王子か、銀の王子か

旅はいつか終わるもの――

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 鈴はスマホを手に迷っていた。

 一度、置いて、露天に入り。

 出て来て、また、スマホの画面を見る。

 うーん。
 そういえば、もうすっぴんだからなー。

 やめとこうかなーと思いながら、ぷし、と押して、テレビ電話を発信していた。

 呼び出し音を聞きながら、……尊さんがうつったようだ、と思っていた。

 考えなしに花嫁を略奪したり、うちの実家のチャイムを鳴らしたりする尊さんが、と思ったとき、征が出た。

 征は、もう自宅に帰っているようだった。

「……こんばんは」
と言うと、

「風呂上がりか」
と問われる。

 うーむ。
 こんばんはと言ったら、とりあえず、こんばんはと返してください、と思いながらも、
「そうです」
と言うと、征は、まるで事務的な連絡であるかのような顔で、

「可愛いな」
と言ってきた。

「……あ、ありがとうございます」
とどう返していいかわからず、とりあえず言うと、

「ひとりか」
と訊かれる。

「はい。
 征さんもおひとりですか?」

「ひとりだ」

「……『ぽすは預かった』んじゃなかったんですか?」

 征は自宅に帰っているようだし、ぽすの姿はないようだが、と思いながら言うと、

「預かっているぞ。
 だが、お前には見せん。

 そして、ぽすは、一匹だろうが。
 ぽすと居ても、二人じゃない」
と言ってくる。

 いやまあ、そりゃそうなんですけどねーと思っていると、
「尊のことだろう」
と言われた。

「そうです。
 私が明日帰れば、尊さん、おとがめなしってことにしてくださいますか?」

「いいぞ。
 どのみち、尊は既に支社に飛ばしてあるからな」

「……では、私が帰らなかったらどうなりますか?」
と言うと、征は沈黙している。

「お父さんの会社が潰されたりとか?」

「若造の俺が、あの会社潰すの至難の技だろ。
 第一、お前の父親、俺に潰されるようなタマか」

「じゃ、ぽすがペットショップで売られていたりとか」

「いや、何処のペットショップが買い取ってくれるんだ、あれ」

 ……ぽす、結構いい年かもしれませんが、可愛いんですよ、と思いながら、鈴は言う。

「それか、うちの実家が勝手に売られたり、火をつけられたり――」

「するかっ!

 ……っていうか、お前が一番恐ろしいな」
と言われてしまった。

「早く帰ってこい、鈴」
と溜息まじりに征は言ってくる。

「お前を叱ったりはしない。
 お前は連れ去られただけなんだから」

 そこで少し間を開け、征は言った。

「……待ってる」

 征は自分から電話を切ったようだった。

 初めてちゃんと話した気がするな、と鈴は思っていた。

 いや、今更、征さんに人間らしさを感じたところで、もう遅いんだけど……となにがどう遅いのかわからぬまま思う。

 尊さんはまだ帰ってこない……。

 鈴はひとり寝室に行った。

 和風モダンで落ち着いた感じの寝室だ。

 ああ、大きなベッドがふたつ並んでるなーと思う。

 同じ部屋は恥ずかしいから、ソファで寝ようかなーと思いながら、今日も長距離移動したせいか、眠かったので、そのままベッドに潜り込んだ。

 また、尊さんが移ったようだ、と思いながら。

 でも、尊さんに聞かれたら、
「いや、元からだろ、その考えなしな性格」
と言ってきそうだなーと思いつつ、鈴は目を閉じた。

 旅はいつか終わるもの。

 どうせ、終わるものならば、いっそ――。



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