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金の王子か、銀の王子か
何故、わざわざそういうことを報告に来る
しおりを挟むちょっと頭冷やしてくる、と言って、尊は部屋を出て行くことにした。
「俺は大浴場に行ってみるが、お前はどうする?」
と鈴に言ってみたのだが、
「いえ。
私はちょっと……」
と言う鈴の手にはスマホがあった。
何処にかけるつもりなんだろう、と思いながら、尊は離れを出、本館の長い廊下を歩く。
友だちになにか相談するとか?
親に電話するとか。
いや……
ようやく電話番号のわかった征にかけるのかもしれない。
……夫なのに、ようやく番号がわかったってのも変だが。
なにを話すつもりなんだろうな、と不安に思っていたが、問い詰めるより、鈴の気持ちを整理させてやるのが先だと思っていた。
おそらく、今夜が鈴と過ごす、最後の夜だ。
明日の夜には、博多に行っておかなければならないし。
もし、鈴が戻るつもりなら、返してやらなければ――。
遅くなればなるほど、鈴の立場が悪くなる。
そんなことを考えながら、廊下を歩く自分のすぐ横を、同じように宿の浴衣を着た男がいつの間にか歩いている。
「強引に奪ってきたくせに、なんで此処で強引に出ないんでしょうね、この人は」
「……帰ったんじゃなかったのか」
と一緒に大浴場に向かっているらしい数志を睨むと、
「自分の部屋に帰ったんですよ。
気を使って、早く出てあげたのに、なんで貴方まで出て来るんですか」
と文句を言ってくる。
「本気になったら、怖くなったんですか?
強引に自分のものにしようとして、鈴様に嫌われるのが」
「……もともと連れ出して、ちょっと脅したら、返すつもりだったんだ。
長く一緒に居すぎただけだ」
そう言うと、
「ちょっとおかしいなと、最初から思ってたんですよ」
と数志は言い出す。
「なにが?」
と問うと、
「こういう復讐の仕方がですよ。
力を入れてたプロジェクトの途中で、支社に飛ばされて腹が立っていたのはわかりますけど。
それにしても、征様の花嫁を連れ去るなんて、貴方らしくもない」
と言われる。
「たまたま、征の結婚式があって、式には出ないと言ったが、気になって、覗いていて、なんとなくだ」
とうつむきがちに言うと、おや、そうですか、と軽く相槌を打ったあとで、数志は言ってくる。
「そういえば、泉美様がおっしゃってましたよ」
泉美は征の母親だ。
「鈴さんは、一億二億しか持ってないような男と駆け落ちなんてして、幸せなのかしらね
って」
「……だから、お前は、何故、わざわざそういうことを報告に来る」
この間も泉美さんが、尊がオモチャにしたような女、今更連れて帰っても、どっちの子を産むかもわからないのにと言っているとか教えに来たな……と思い出していると、
「今夜もなにもしないおつもりですか」
と数志は言い出した。
だから、お前の立ち位置は何処だ? と尊は思う。
お前は、跡継ぎに決まった征の腹心の部下じゃないのかと思うが。
まあ、幼い頃から、共に育ったから、敵となっても突き放しきれないものがあるんだろうな、とは思っていた。
「尊様。
このまま鈴様を返したら、征様の花嫁を親戚がドライブに連れてったってだけの話ですよ。
ま、その方が鈴様も帰りやすいんでしょうけどね」
「お前は俺をそそのかしてんのか」
いいえー、別にー、と言ったあとで、数志は、
「俺、明日の朝、早く出ますけど。
窪田さんとか、征様になにか言伝はありますか?」
と言ってくる。
「窪田には礼を言っといてくれ。
征にはない」
「了解です。
他にご用事は?」
「……壇ノ浦は下りだから逆か」
「は?」
「いや、宝くじを買ってきてもらおうかと」
「泉美様の話、気にしてるんですか?
当たる気満々ですね。
桁違いの財産を相続できるかもしれないのに、宝くじとかショボイこと言わないでくださいよ。
あ、海外で買ってきましょうか?」
と笑われ、いや、いい、と言いながら、結局、一緒に風呂に入った。
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