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大人なので、果てしない逃亡の旅には出られません
もはや、誘拐犯ではない
しおりを挟む見てはならぬものを見てしまった……。
夜食を買いに清白の屋敷近くのコンビニに行った数志は、見てはならぬものを見てしまった。
自分に気がつき、棚の陰を通りながら、そっと逃げ出そうとする尊の姿だ。
「なにやってんです」
と呼びかけると、尊は立ち止まり、バツ悪そうにこちらを振り返った。
「なんでこんなところに居るんですか。
見つかりますよ」
と思わず言って、
「いや、俺たち捜索してんのお前だろうが」
と言われてしまう。
「ま、そうなんですけどね。
今、特に見つけたくないのに、見つからないでくださいよ。
なんで自分から帰ってきてるんですか」
と言うと、
「いや、鈴がぽすの様子が気になるって言うから帰ってきたんだが。
鈴が疲れているようだったんで、今日は近くのビジネスホテルにでもひっそり泊まろうかと」
と尊は言ってくる。
鈴、鈴、鈴って。
もはや、誘拐犯ではないな。
姫に仕える下僕か……?
と仕えている家の息子に対して失礼なことを思いながら、
「それはいいんですが。
で、なんで、こんな屋敷の近くに居るんですか」
と文句を言うと、
「いや、灯台下暗しかと思って」
と尊は言う。
「暗くないです!
さっさとどっか行ってください。
俺は今日は疲れてるんで、このまま帰って寝たいんです。
今から、貴方がたをとっ捕まえて尋問するとか勘弁ですから」
ほら、しっし、と数志は尊を手で払う。
征なら無言で睨みをきかせてくるところだが、尊は、
「大丈夫か?
あとで怒られないか?」
といきなりこっちの心配をし始めた。
「俺以外に貴方が見つからなきゃいいんですよ。
さっさと逃げてくださいよ、も~」
と数志は、自分の都合で、捕まえるべき人間を追い払う。
まあ、それだけが理由ではないが……と溜息をついたあとで、尊に少し忠告をしてみた。
「早くどうにか決着つけた方がいいですよ。
征様はいつまでもしつこく、諦めませんよ。
ご存知でしょうが。
そういう方ですから」
さあ、行ってください、と言いながらも、この事態を何処にどう決着つければ、おさまるのかわからないな、と思っていた。
弁当の入ったコンビニの袋を手に、こちらに軽く頭を下げながら尊は出て行く。
二人分の弁当か……。
なんかいいな。
俺もやっぱり彼女とやり直そうかな、とぼんやり思いながら、数志は尊を見送った。
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