31 / 77
大人なので、果てしない逃亡の旅には出られません
お前を見守っているよ
しおりを挟むぽすを片手に抱いた鈴の父、晴一郎は、娘の手にスマホを持たせた。
「スマホは必ず、持っていなさい。
何処に行っても、連絡がつくから」
晴一郎がそう言うと、鈴は、はい、と素直に頷く。
「お前が何処に行こうとも、ちゃんとお前を見守っているよ。
……GPSで」
と言うと、いつもなら、お父さんやめて……というところだろうが、今日の鈴は素直に頷いた。
可愛い娘だ。
少々間が抜けているが。
そういうところを親の自分は可愛いと思うのだが――。
同じように可愛いと思ってくれる男に引き渡したい、と思って、ふと、尊を見ると、娘を無理やり連れ去ったはずのこの男は、実に微笑ましげに鈴を見下ろしていた。
だが、このまま事態が上手くおさまったりしないことを自分は知っている。
鈴も、尊もまだ気づいていない事実があるから――。
何故、自分が征と鈴の結婚を許したのか。
その理由をこの二人は知らない。
「スマホ、持ったか」
と尊が鈴に言う。
「はい」
「バッグは?」
「はい」
「着替え」
「はい」
出かける前のチェックをしている二人を見ながら、晴一郎は、修学旅行か……? と思う。
尊が、出発前に生徒の荷物のチェックをしている先生に見える。
鈴にはこういう男の方が合ってるとは思うんだが――。
そう思いながら、二人を眺めていた。
「あ、お財布」
「それはいい。
俺が出すから。
待てよ。
そうだ、手帳は?」
あっ、と声を上げた鈴に、
「よし、取ってこい!」
と尊が言い、
「はいっ!」
と鈴は駆け出した。
犬か、と思いながら、二階に上がっていく娘を見ながら、晴一郎は尊に言った。
「尊くんも入ってみなさい、鈴の部屋。
今は家内が綺麗にしてるから」
と言うと、階段の途中から、こちらを見下ろし、鈴が叫ぶ。
「おとーさん!」
普段は散らかしていることをバラしたようなものだからだろう。
いや、一緒に旅してる間に、お前の雑な性格はバレていると思うが……。
今は楽しそうな二人が仲良く揉めながら二階へと上がっていくのを見ながら、晴一郎は、ぼそりと言った。
「でも、旅はいつか必ず終わるものだからなあ。
なあ、ぽす……」
腕に抱いているぽすが自分を見上げる。
14
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
身代わりお見合い婚~溺愛社長と子作りミッション~
及川 桜
恋愛
親友に頼まれて身代わりでお見合いしたら……
なんと相手は自社の社長!?
末端平社員だったので社長にバレなかったけれど、
なぜか一夜を共に過ごすことに!
いけないとは分かっているのに、どんどん社長に惹かれていって……
極道に大切に飼われた、お姫様
真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる