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クビになる……

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 どうしよう。
 阿呆なカップルだ……と思いながら、数志は二人を眺めていた。

 だが、今なら、窪田が言っていたことがよくわかる。

 なるほど。
 今のこの二人は、初々しい、可愛らしいカップルに見える。

 征と鈴の見合いを自分も遠くから見ていたのだが、びっくりするくらい会話が弾んでいなかった。

 結納は仕事で立ち会えなかったのだが、やはり、同じだったろう。

 ……どうすんですか、征様、これ。

 っていうか、どうしたらいいんだ、俺、と思いながら、数志は、なおも続く、鈴の話を聞いていた。

「そういえば、私、地球の真ん中辺りが暑いのは、遠赤外線が通ってるからだと思ってたんですよ」

「赤道だろ……」

 ……さっき、小話こばなしはないとか言わなかったか。

 っていうか、まさか、これも大学生のときの話じゃないだろうな。

 確か名門女子大を出ているはずだから、そんなことはないと思うが……と思いながらも、数志は言った。

「で、お二人は、いつまで、逃亡してるつもりなんですか」

 側に居ると、一緒にぼんやりしてしまいそうなカップルに唐突に現実を突きつけてみる。

 ぴたり、と話が止まった。

「ま、正直、俺は、どっちでもいいんですけどねー。
 そういえば、泉美いずみ様がお帰りになったんですけどね、今朝」
と言うと、尊が渋い顔をする。

「今頃戻ってきたのか」

「泉美さんって、確か、征さんのお母様ですよね?」
と鈴が尊に訊いていた。

「そういえば、式には出席されてなかったですよね。

 ご病気ですか?

 特に説明はありませんでしたけど」
と言う鈴の言葉を遮るように尊が訊いてくる。

「で、泉美さんがどうした?」

「いや、征様が尊様に花嫁を連れ去られて探していると聞かれて、もう探さなくていいんじゃない? っておっしゃってました。

 尊がオモチャにしたような女、今更連れて帰っても、どっちの子を産むかもわからないのにって」

「ええっ?
 私、清らかなんですけどっ」
と思わず叫んだ鈴を尊が睨んでいる。

 やっぱりか、と数志は思っていた。

 尊の性格では、嫌がる女を無理やりに、なんてことはできないと思っていたのだ。

 たぶん、式場から連れ出して、散々、言葉で脅したあとに、返すつもりだったのだろう。

 ……で、なんで、ずっと一緒に居るんだろうな、と思いながら、二人に言った。

「どうでもいいですけど。
 三日以内にはお帰りくださいよ。

 尊様は、飛ばされた支社に三日後には赴任されてないとまずいでしょうが」

「えっ?
 そうなんですか?」
と鈴が尊を見る。

 今は転勤ということで、ちょうど休みがもらえているが、出向先に行くべき日に行かなかったら、ああ、やっぱり、飛ばされてきたようなお偉いさんはやる気がないんだな、と思われてしまうだろう。

「一応、忠告です。
 じゃ、もう帰りますね。
 あんまり長居すると、まずいんで」
と立ち上がると、鈴が何故か、

「えっ? もう帰っちゃうんですか?」
と言ってくる。

「……居て欲しいのか」
と尊が睨んでいるが。

 たぶん、鈴は二人だけで逃げているのが心細かったのだろう。

 いや、一応、敵なんだが、と思いながらも、すがるように見られて、ちょっと嬉しかった。

 なので、うっかり、更に仏心を出してしまう。

「征様には、こっち方向に逃げたらしい、とだけ報告しとくんで。
 早くどうするのか決めてくださいよ」

「敵に塩を送る気か?
 不気味だな」
と言う尊に、

「そうじゃないですよ。
 まあ、万が一、尊様が巻き返して、清白すずしろの跡継ぎになられたら、尊様に仕えるようになるので睨まれたくない、というのもありますが。

 ……このままだと、征様が不幸になりそうな予感がするので」

 じゃ、と言って、その場を後にした。

 これ、誰かに見られたら、クビかな~と思いながら。



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