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いいえ、返品は受け付けません
有能な支配人
しおりを挟む爆睡してしまった。
疲れていたからだろうか、と起き上がった鈴は、寝室から出て、尊の姿を探す。
「尊さん?」
と尊が此処で寝ると指差していた部屋の扉を叩いてみた。
だが、返事もないが、そもそも、人の気配自体、感じない。
「開けますよ~」
と言いながら、そうっと扉を開けてみたが、やはり、尊の姿はなかった。
ソファで寝た形跡もない。
尊さん、一体、何処に?
と思いながら、周囲を身渡そうと、テラスに出ると、尊はテラスに居た。
――隣のヴィラのテラスに。
「なんでそっちに居るんですかっ」
と鈴が叫ぶと、尊は、
「おはよう。
こっちで寝るって言ったろう」
と言ってくる。
……あのとき指差していたのは、隣のヴィラだったのか。
わかるかっ、と思う鈴に、尊は、
「朝風呂に入るんじゃないのか、早くしろ」
と笑って言ってきた。
ま、まあ、朝の光を浴びながらあのお風呂に入るのは素敵でしょうけど、と思ったとき、誰かが、入り口の扉をノックした。
はい、と鈴が振り向くと、尊は警戒したようにそちらを見る。
追っ手が来たかと思ったのだろう。
だが、
「失礼します」
と入ってきたのは、支配人の窪田だった。
手に何故か大きなピクニック用のバスケットをさげている。
「尊様、鈴様。
そろそろお帰りください」
とテラスに出た窪田は言ってきた。
「ご朝食はバスケットに詰めておきました。
そろそろ征様が気づかれて、追っ手がかかる頃です。
うちの車をお使いください。
普通のセダンなので、わかりにくいはずです」
とこの有能な支配人は言ってくれる。
「ああ、ちなみに、後からこのヴィラとヴィラの間には、木を植えますので、お隣同士見えることはありませんから。
ぜひ、皆様にもいいホテルだったとお伝えください」
とぬかりなく、宣伝も付け足しながら。
でも、自分たちが逃げたら、後の応対を任された窪田が困るのではないかと思っていると、そんな鈴の表情に気づいたように、窪田は笑って言ってきた。
「ああ、私のことなら、ご心配なく。
尊様に脅されたと言いますから」
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