というわけで、結婚してください!

菱沼あゆ

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略奪されました

忍んできて欲しかったら

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 夜は二人で、たまたまやっていた古い映画を見て過ごした。

「……なんでしょう。
 ピー音が多くて、なにを言っているのか、聞こえないんですが」

 なんてことない普通の映画なのに、今の時代から見れば、放送禁止用語を連発しているらしく、シーンによっては、ほぼピーと鳴っていて、なにを言っているのかよくわからない。

「昔はおおらかだったんですねー」
と呟き、鈴は欠伸をする。

 二人とも、なんとなく、ソファで膝を抱えて映画を見ていたのだが。

 逃亡中なせいか、親に叱られた子どもが、しょんぼり膝を抱えているように思えてしまい、つい、はは、と笑うと、
「……なにか勝手な妄想が炸裂してるだろ」
と尊が言ってきた。

 何故、わかった、と思う鈴に、
「もう寝ろ」
と尊は言ってくる。

 さっき、欠伸していたのを見ていたようだ。

「あー、もうこんな時間ですねー」
とちょうど視界に入った尊の腕にある時計を勝手に見たあとで、

「あっ」
と声を上げると、なんだ? と見られる。

「いえ、手帳書かなきゃと思ったんですが、そういば、今日は持ってなかったです」

 着の身着のままで連れ出されたからな、と思う鈴に、
「手帳?」
と尊が訊き返してくる。

「最近、ほら、夢が叶うようにいろいろ書く手帳とか、趣味のことを書き綴る手帳とか、流行ってるじゃないですか。

 あれやってみようと思って書き始めたんですが。

 あれもこれも書こうと思って、いろいろ混ざっちゃって。

 最早、ただの日記になっちゃってるんですけどね~」

「……その手帳、今、持ってたら、どうする気だ。
 『今日、教会から連れ去られました』とか書くのか」
と言われ、鈴は苦笑いする。

「くだらないこと言ってないで、寝ろ。
 俺はもうちょっと、このピー音を聞いて寝るから」

 なんて言ってるのか推理する、と言う尊に笑うと、
「鍵、かけとけよ、寝室」
と尊が去り際言ってきた。

「え?
 そしたら、尊さんが入って来られないじゃないですか」
と振り向き、言うと、

「入ってきて欲しいのか……」
と言う。

「いえ、そうじゃなくて。
 尊さんが寝られないじゃないですか」

 このヴィラ、寝室は広いが、一箇所しかないはずだが、と思っていると、
「俺はあっちで寝る」
と尊は隣の部屋の方を指差す。

 そういえば、あっちにも大きなソファがあったが、それで大丈夫なのだろうか、と思っていると、
「忍んできて欲しかったら、鍵開けとけ」
と言われた。

 いえ、結構です、と思いながら、
「なんか申し訳ないですね。
 毛布持ってきますね」
と言うと、尊はテレビを見たまま言ってくる。

「……お前、俺に襲われたらどうする、箱入り娘」

「え?」

「短刀で胸を突くか?」

「持ってないです、短刀」

 白無垢なら、小物として懐剣を胸に挿してただろうが、着ていたのは、ウェディングドレスだ。

「じゃあ、舌でも噛み切るか」

「痛いじゃないですか」

「……お前は抵抗する気はあるのか」
と振り向かれる。

 ……ありありですよ。

 いや、ほんとに……。



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