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略奪されました

そもそも不器用なので

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「シャンパンとフルーツ、お届けしてきました」

 まだ稼働していないフロントで、ノートパソコンとカレンダーを見ながら、内装作業の進行状況をチェックしていた窪田くぼたは顔も上げずに、スタッフに、

「ああ、ありがとう」
と返事をしたあとで、

「どうだった? 尊様は」
とその男性スタッフを呼び止め、訊いた。

 そのスタッフもまた、かつて、清白の屋敷に勤めていたことのある男だった。

 男は、にんまり笑い、
「とても楽しそうな無表情でらっしゃいましたよ」
と言って、では、と行ってしまった。

 ……目に浮かぶようだな、と窪田は思う。

 相変わらず、表情に出さずに楽しそうだったのだろう。

 尊は、幼い頃にいろいろあったせいで、楽しいときに、楽しいという感情を出さないくせがついているようだった。

 本当に不器用な人だ、と思ったとき、フロントの電話が鳴った。

「はい」
ととった窪田はしばらく黙って、相手の話を聞いていた。

「……いえ、いらしてませんが。

 はい。
 ええ、オープングセレモニーには充分間に合うと思います。

 はい。
 ぜひいらしてください。

 では、失礼致します」

 切った瞬間、
「支配人、今――」
と電話の音を聞いたらしいフロント担当の若い女性スタッフが廊下の向こうから急いでやってきた。

「ああ、大丈夫。
 本社からの進行具合の確認の電話だったから」
と微笑むと、そうですか、と頭を下げて、彼女は行こうとした。

 本当は、尊がこちらに来ていないかと訊かれたのだ。

 探している事情は、特に教えてはもらえなかったが。

「ああ、ちょっと待って」
と窪田はその女性スタッフを呼び止める。

「明日のことで、シェフに伝言。
 いや、私も行こうか」
と言って、窪田はスタッフとともに厨房へと向かった。



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