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略奪されました

森と湖に囲まれたヴィラ

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 城の裏手側に何棟かあるヴィラはもう完成しているようだった。

 人工のものなのかもしれないが、ヴィラの前には小さいが、ゆったりとした湖が広がっていた。

 西洋の美しい森と湖に囲まれたヴィラ。

 ――といった感じだが、此処はもちろん、日本だ。

 だが、山の奥深くで、他に民家もないので、日本じゃないんじゃないかな、とかうっかり思ってしまいそうになる。

 そうみことに言うと、湖の向こうの森を見ながら、言ってくる。

「まあ、西洋の森というには、杉、松、ヒノキが多すぎるかな」

「そうですね。
 素敵なホテルですが、花粉症の方にとっては、時期によっては危険ですよね」

「……窪田に言っとくよ」
と尊が言ったとき、ヴィラの入り口のチャイムが鳴った。

 まさか、追っ手!?
と鈴は身構えたが、どうやら、ホテルのスタッフが訪れただけのようだった。

 ほっとしたあとで、気がついた。

 そういえば、誘拐されてる私が追っ手の心配をするのも変だったな、と。

 スタッフと尊が話す声が微かに聞こえてくる。

 鈴は心地の良い森の風に誘われるように、開け放たれた大きな掃き出し窓から広いテラスに出てみた。

 すると、カルガモの親子が茂みから移動しているところだった。

 えい、と池に落ちているカルガモの子どもを見て、

 ―― いや、そんな風に鈴には見えたのだが、

「わあ、可愛い」
と声を上げ、テラスの端まで出たとき、尊が、

「ほら」
とシャンパンを後ろから差し出してきた。

 今、スタッフの人が持ってきてくれたウェルカムドリンクらしい。

 尊の手にある透明度の高いクリスタルガラスのグラスの向こうに、森と湖が映り込んでいて綺麗だ。

「ありがとうございます」
と受け取った鈴は、喉が渇いていたこともあって、優雅に泳ぐカモを見ながら、すぐに、それに口をつけた。

 だが、尊が呑んでいないことに気づく。

「呑まないんですか?」
と訊くと、尊はカルガモの親子を見ながら、

「いつまた車で逃げなきゃいけないかわからないじゃないか」
と言ってくる。

「いやあ、そのときは、タクシーで逃げればいいんじゃないですかね?」
と鈴が言うと、尊は、

「……タクシー?」
と訊き返してきた。

「それか代行。
 あ、こんなところまで来てくれないですかね?」

 しばらく沈黙していた尊は、
「……莫迦莫迦しくなってきたから、呑むか」
と呟き、グラスに口をつけていた。

 そのまましばらく二人で湖を眺めていた。

 逃亡中とは思えない、ゆったりとした時間が流れている。

 昨日、忙しく式の準備をしていたときには、今、こんな風にしている自分を想像もしていなかったな……と思いながら、鈴は湖から流れてくる冷たい空気を吸い込んだ。




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