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略奪されました
誘拐したの、俺だよな……?
しおりを挟む「車の用意をしてくるから、着替えとけ」
と言って、尊は出て行った。
この間に逃げるかな、と思って、わざと隙を作ってやったのだ。
だが、鈴を連れて逃げないにしても、どのみち、車はいる。
ログハウスからつながっている車庫に行ってみると、古い赤のアルファロメオ・グランスポルト・クアトロルオーテがあった。
いや……これ、すぐには動かないだろ、と思いながら、横の小さなフィアット500を見る。
こちらは最近のものらしいが、これも赤で、内装まで赤い。
もう花嫁を連れて歩くわけではないので、それに似つかわしい目立つ車でなくていいのだが。
何故、全部、赤だ、親……と思いながら、居間から持ってきていた鍵のひとつを使い、フィアット500を動かすと、動いた。
ガソリンも充分あるようだ。
尊は車を玄関前に回したあとで、そっと裏口から覗いてみた。
中にはまだ鈴が居た。
締め過ぎていて苦しいからか、コルセットを自分で外そうとしていたが、外れないようだった。
溜息をついている。
諦めたな、と思いながら、見ていると、鈴はコルセットの上から、おもむろにストライプのシャツを羽織り、白いパンツを穿き、ベルトを締めた。
言われた通り、袖と裾を折っている。
自分で自分を見下ろし、少し考えたあとで、一度、中に入れて見ていたシャツを外に出す。
そうしていると、男物だが、そんなに違和感はなかった。
むしろ、マニッシュで格好いい。
顔が可愛い感じなので、その馴染まない感じが逆に魅力的だ。
自分でも、なかなか似合うと思ったのか。
壁にある、造りつけの細長い鏡に気づいた鈴は、自分の姿を映してみては、にんまり笑っている。
……いや、逃げろよ。
なんのために隙を作ってやったと思ってるんだ。
よくわからない女だ、と思いながら、裏口のドアを開けると、自分に気づいた鈴が振り返り、笑顔で言ってくる。
「あ、いい感じです。
ありがとうございます。
ドレス歩きにくくて、大変だったんですよー」
いきなり、礼を言われ、なんて答えていいのかわからず、
「……そうか。
車の用意、できてるぞ」
とだけ尊は言った。
「行くぞ」
と先に立って歩きながら、尊は思っていた。
……誘拐したの、俺だよな。
なんだか、こいつに振り回されそうな予感がするんだが―― と。
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