というわけで、結婚してください!

菱沼あゆ

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略奪されました

略奪犯と逃避行

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 五分後、程よく来た電車に二人で乗っていた。

 時間帯のせいか、空いていたので、長い座席に、二人で少し距離を空けて座る。

 斜め前に座るイヤフォンをやった大学生らしき女の子とかは、チラチラとこちらを見ていたが、特に誰も騒がなかった。

「大丈夫だ」
みことが小声で言ってくる。

「堂々としてろ。
 きっと、ドッキリかなにかだと思われている」

 そう言いながら、鈴の手を握ってきた。

 ……いや、勘弁してください。

 どきりとしてしまうではないですか、と鈴が思っていると、

「それか、式場行きのバスに乗り遅れて、電車で移動してるマヌケなカップル」
と正面を見たまま、大真面目にそう言ってくるので、笑ってしまった。

 そこで、こちらを振り向き、尊は、
「ああ、別に、助けてくださいって叫んでもいいぞ。
 俺は捕まっても構わないから」
と言ってくる。

 ……そんなこと言われたら、逆に騒げないじゃないですか。

 騒ぎになっても困るから、たぶん、誰もこの件をオープンにはしていない。

 清白すずしろの人間が人を使って探してはいるだろうが。

 うちは……

 うちは探しそうにないなあ、と鈴は、ぽすと、ぽすに似た父と、のんびりした家族を思う。

「どうした?」

「いや、なんか、急にむなしくなりまして……」
と呟き、振り返って窓の外を見た。

 海だ……。

 いや、さっきからずっと海、見えてるんだが。

 綺麗だな。

 そういえば、せいさんと一言だけ、口をきいたな、と思い出す。

『いや、特に希望はないんですけど。
 あえて言うなら、式は海の近くの教会でやりたいかなーって』

 あの人、表情も変えずに聞いてたな、と思ったとき、尊が、
「降りるぞ」
と言ってきた。



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